マーケティング施策の優先順位の考え方 はじめに マーケティング施策の優先順位の考え方をわざわざテーマとして記事にするのには理由があります。その位置づけや期待されている役割、役割を果たすうえで必要な内容を考え […]
マーケティング施策の優先順位の考え方
はじめに
マーケティング施策の優先順位の考え方をわざわざテーマとして記事にするのには理由があります。その位置づけや期待されている役割、役割を果たすうえで必要な内容を考えず、「いきなりマーケティング施策を展開してもダメ」ということです。
まず、位置づけとしては、マーケティング戦略の一環として、マーケティングの課題や目標、課題・目標を達成できる仮説の組立があってはじめて、その具体的な設計に入らなければなりません。
次に、期待されている役割としては、「受注」を最終目標とするターゲットの購買意思決定過程のスムーズな移行を実現することです。
さらに、役割を実現する上で必要な施策内容としては、各過程にいるターゲットの「課題をニーズに」、「ニーズをウォンツに」変換させる訴求点を備えていることが求められます。
マーケティング施策の洗出し:基礎から始める
マーケティング施策とは
マーケティングは、その権威フィリップ・コトラーによれば、市場で売買するための「価値の伝達と提供」と定義されます。
施策とは、特定の目標や企業目的達成のために行われる計画的な行動や手段を示します。とすれば、いきなりマーケティング施策の洗い出しをはじめても意味がありません。それどころかマーケティング上の課題や目標を達成する上で必要な内容を含まないマーケティング施策は、経営資源の無駄遣いにすぎません。
従って、マーケティング施策とは、「現在のマーケティング課題を解決でき、具体的なマーケティング目標を達成できる仮説」に基づいて設計された、自社商品・サービスを市場で売買するため、その価値の伝達と提供を内容とするものであることが必要です。
参考:「コトラーのマーケティング5.0」フィリップ・コトラー朝日新聞出版 (2022/4/20)
マーケティング施策洗い出しプロセス
マーケティング施策を、「現在の課題を解決でき、目標を達成できる仮説に基づくもの」と定義した場合、具体的な施策設計前に、現在の課題の把握、具体的な目標の設定、課題と目標を達成できる仮説の立案が終了されていることが必要です。
また、マーケティング施策の実践で期待されている効果は、ターゲットの購買意思決定過程のスムーズな移行であるため、購買意思決定過程として設定されるプロセスに最適な施策の洗い出しであることが必要です。例えば、企業間取引であるBtoBマーケティングのターゲットの購買意思決定過程は、以下の通り、4Stepに分かれます。
Step1:潜在顧客層から見込み顧客を「獲得」する過程
Step2:見込み顧客から購買意欲の高い見込み顧客(MQL(Marketing Qualified Lead))へ「育成」する課程
Step3:MQLから受注確度の高い見込み顧客(SQL(Sales Qualified Lead))を「選別」する課程
Step4:SQLに商談して受注を獲得する課程
これらStepごとに最適な施策の洗い出しが必要です。
さらに、Stepごとのターゲットの「課題をニーズに」「ニーズをウォンツに」にかえる訴求点も洗い出さなければなりません。
このように、マーケティング施策の洗い出しプロセスは、戦略策定上の位置づけと、施策の実践で期待されている効果により決められます。
ニーズと訴求点の把握:顧客の声を聞く
顧客のニーズ・訴求点とは
訴求点(伝達・提供すべき価値)とは | |
課題を持つターゲットに対しては | ニーズを持つターゲットに対しては |
課題をニーズに変化させるため | ニーズをウォンツに変化させるため |
「課題解決の必要性」
を認識してもらうこと |
「自社商品・サービスでの課題解決場面」
を紹介すること |
参考:「コトラーのマーケティング5.0」フィリップ・コトラー朝日新聞出版 (2022/4/20)
洗い出すべき具体的なマーケティング施策は、ターゲットの購買意思決定過程に応じた「課題をニーズに」「ニーズをウォンツに」にかえる訴求点を持ったものでなければなりません。
そもそも、課題やニーズ、ウォンツ、訴求点とは何でしょうか?ここでその定義・意味を明確にし、共通認識を構築しておきます。
「課題」とは、ターゲットが直面している問題や悩みです。
「ニーズ」とは、ターゲットが持つ課題の解決や目的を達成する「必要性」を指します。
従って、直面している問題や悩みのうち、解決すべき必要性の高い課題がニーズとなります。
「ウォンツ」とは、課題解決や目的達成のための具体的な「手段」に対する欲求です。
従って、自社商品・サービスが課題解決に役立つとの認識をもってもらえれば、ニーズをウォンツに変換でき、市場で買ってもらえます。
「訴求点」とは、ターゲットに自社商品・サービスの魅力や特徴を伝えることです。
従って、市場で売買するための「価値の伝達と提供」をマーケティングと定義づけした場合、伝達・提供すべき「価値」が訴求点となります。
つまり、自社商品・サービスがターゲットの課題や目的を解決するための具体的な手段になるとの欲求を喚起させることが、マーケティング施策の洗い出すべき具体的な訴求点です。
例えば 上記図表のように、「課題をニーズに」変換させるためには「課題解決の必要性」が訴求点となりますし、「ニーズをウォンツに」変換させるためには「自社製品・サービスでの課題解決場面」が訴求点として求められます。
顧客のニーズ・訴求点の洗い出し
▼顧客のニーズ・訴求点洗い出しのポイント
訴求したいニーズは、受注に近い施策の優先度が高くなるため「導入の決め手」がまず洗い出すべきポイントとなります。そこから購買意思決定過程を「興味をもったきっかけ」までさかのぼって、ニーズや訴求点を洗い出していきます。これらの情報は、実際に顧客へヒアリングやアンケートを行い取得することが望ましいです。
もっとも、自社の課題に気付いていない経営者や会計担当者も多いBtoBマーケティングでは、展示会やセミナー、ウェビナーといったイベントに潜在顧客層を集め、課題やニーズを明確にする事例やデータを紹介するなど、施策を展開する側から積極的に働きかけることで、ターゲットのニーズや訴求点を洗い出す必要があります。
施策の優先順位を決める:効果的なマーケティング戦略
マーケティング施策に優先順位をつける
▼マーケティング施策の優先順位の考え方
効果的なマーケティング戦略を実現するには、施策を展開した後、PDCAサイクルで費用対効果を高めていくことが必要です。そのためには、適正に評価されるよう、マーケティング施策に優先順位をつけなければなりません。
マーケティング戦略の目的は、自社商品・サービスの市場での売買を成立させることにあるので、「受注」に近い施策の優先度を高くする必要があります。例えば、上記図表のように、潜在層に対して展開される施策のKPI(Key Performance Indicator)より、明確層に対して実施される施策のKPIの評価を高く設定します。
より具体的な優先順位の考え方は、ターゲットの購買意思決定過程で異なります。例えば、潜在層から見込み顧客、MQL、SQL、受注顧客まで購買意思決定過程が分かれているBtoBマーケティングでは、その過程をスムーズに移行させることが施策の目的であるため、各ステップに設定されるマーケティング施策の内容もその優先順位も異なります。一方、検索を通じてニーズや訴求点が明確となるBtoCマーケティングでは、より単純な購買意思決定過程をたどるため、BtoBマーケティングほど施策内容も優先順位も複雑にする必要がありません。
このように、マーケティング施策に優先順位をつける方法は、受注に近い施策の順位を高く設定することが基本となり、さらなる詳細な設定は、ターゲットの購買意思決定過程に応じて設けられたStepの目的により異なると考える必要があります。
マーケティング施策優先順位評価基準とは
▼マーケティング施策の具体的な優先順位評価基準の例
この評価基準では、まず、受注に近い「売上へのインパクト」で優先度が評価され、次に、その実現可能性という意味で「即効性」や「実行スピード」が高く評価されています。そして、費用対効果の判断指標である「かかるお金」も順位に影響していることがわかります。
また、打ち手の内容から、この図表で優先順位がつけられているマーケティング施策が設定されているStepも分かります。Web広告やPRがあることから、潜在顧客層から見込み顧客を「獲得」する段階であり、ターゲットとのコミュニケーション施策となるオウンドメディアとSNSもまとめられていることから、見込み顧客を「育成」段階でもあることが読み取れます。つまり、購買意思決定過程に応じて設けられたStepの目的により、優先順位が詳細に設定されているのです。
ロードマップの作成:長期的な視点で計画を立てる
マーケティング施策のロードマップとは
▼「月次」ロードマップの例
ロードマップとは、期間で区切った概括的なアクションプランです。アクションプランとは、現状の課題やマーケティング目的を設定した後、立案されたカスタマジャーニーのうち、具体的な実行者や実行時期・実行場所などを定めた計画です。
こうしたアクションプランの概要を記載した事業ロードマップは、上記図表のように、各施策について、どの期間で何の結果を得たいのか、仮説検証のサイクルとセットでタイムラインを決めます。検証のサイクルが早いものは1週間〜2週間単位、長いものでも1か月単位で検証結果が得られるように設計します。
ロードマップ作成のポイント「長期的な視点」
▼「中期」ロードマップの例
ロードマップ作成のポイントは、長期的な視点で計画を立てることです。ロードマップの役割は、マーケティング戦略とその具体的な施策の内容と進行状況の素早い把握と、PDCAサイクルでの改善へのサポートにあります。そのため、短期かつ詳細な施策内容が掲載されると、現状の課題や設定したマーケティング目標、課題解決と目標達成のために立てられた仮説に基づくカスタマジャーニー、具体的なマーケティング施策などが一覧できません。こうした課題や目標、仮説に基づいたカスタマジャーニーと具体的施策内容を素早く把握できるよう、長期的な視点でロードマップが作成されることが必要です。
この点、目的や意思決定、全体戦略が掲載されている上記の「月次」及び「中期」ロードマップは大変参考になります。
まとめ:優先順位をつけたマーケティング施策の効果
優先順位をつけたマーケティング施策の効果は、目的の実現という形で現れなければ、正しい順位付けがなされていないことを意味します。
マーケティング施策の順位付けの最終目的は、自社商品・サービスの市場での売買です。そのため、BtoBマーケティングでは、「受注」に近い施策の優先度を高く設定する必要があります。従って、優先順位をつけたマーケティング施策の効果として一番望まれるのは「受注」又は「市場での売買」の成立です。
また、市場での売買に次ぐ、マーケティング施策の目的は、ターゲットの購買意思決定過程のスムーズな移行です。従って、BtoBマーケティングの施策の効果として「受注」の次に求められるのは営業部門が商談するに値する受注確度の高い見込み客が「選別」されることです。
一方、マーケティング施策はPDCAサイクルされるため、運用期間が長期化するほど、費用対効果が向上していくことも、優先順位をつけたマーケティング施策の正しい効果といえます。
このように、マーケティング施策の優先順位の考え方は、設計段階と施策が実施された後では、異なるので注意が必要です。