事業戦略は、企業が成長し続けるための指針として重要な役割を果たします。適切な戦略を策定し、それを実行することで、競争が激化する市場環境の中で優位性を確保できます。本記事では、事業戦略の定義、フレームワークを活用する目的、そして具体的なフレームワーク9選を中心に、戦略立案の際に注意すべきポイントを解説します。

事業戦略とは

事業戦略とは、企業が中長期的な目標を達成するために策定する具体的な行動計画や指針のことを指します。これは、企業全体の方向性を決定づける「経営戦略」に基づき、より具体的に落とし込まれたものです。事業戦略には、企業が「どの市場で」「どの顧客に」「どのような価値を提供するのか」という基本的な問いへの答えが含まれます。
この戦略の重要性は、競争が激化する現代の市場環境において特に顕著です。例えば、競合他社との差別化を図るための戦略を持たない企業は、価格競争に巻き込まれやすく、利益率の低下を招きかねません。一方、明確な事業戦略を持つ企業は、自社の強みを最大限に活かし、市場でのポジションを確保できます。
また、事業戦略はリソースの有効活用にも繋がります。限られた資源を効果的に配分することで、無駄を減らし、成果を最大化できます。

事業戦略の立案にフレームワークを用いる目的

事業戦略を立案する際、膨大な情報を効果的に整理し、戦略の精度を高めるために「フレームワーク」が活用されます。フレームワークとは、分析を体系化し、戦略策定を効率的に行うための枠組みです。フレームワークを用いるのには4つの目的があります。
1つ目は、フレームワークは複雑な情報を整理するのに役立ちます。例えば、自社の内部環境や外部環境を総合的に分析する必要がある際、SWOT分析やPEST分析といったフレームワークを使うことで、情報を体系的に分類し、見落としを防ぐことができます。
2つ目は、フレームワークは客観的な分析を実現します。直感や経験だけに頼った戦略立案では、主観的なバイアスがかかりがちです。一方、フレームワークを用いることで、データや論理に基づいた客観的な意思決定が可能になります。
3つ目は、フレームワークは戦略の透明性を高めます。関係者全員が同じ視点で戦略を共有できるため、認識のズレを防ぎ、組織全体での一体感を促進します。たとえば、3C分析を使えば、「顧客」「競合」「自社」の3つの観点から全員が同じ基準で議論を進められます。
4つ目は、フレームワークはコミュニケーションの円滑化にも貢献します。特に、異なる部門や役職の間で情報を共有する際、フレームワークを活用することで共通の土台を提供し、意思疎通をスムーズにします。
これらの4つの理由から、フレームワークは事業戦略の立案において非常に重要な役割を果たしています。適切なフレームワークを選び、それを効果的に活用することで、企業は市場の複雑性に対応し、より競争力のある戦略を構築できます。

事業戦略用フレームワーク9選

事業戦略を効率的に策定するためには、複雑な情報を整理し、分析を体系化するフレームワークの活用が欠かせません。ここでは、代表的な9つのフレームワークを解説します。各フレームワークには特有の目的と利点があり、戦略の立案や実行において役立ちます。

1.SWOT分析

SWOT分析は、事業環境を内部要因と外部要因に分けて評価することで、戦略の方向性を決めるための基本的なフレームワークです。
具体的には、自社の強み（Strength）や弱み（Weakness）といった内部環境を分析するとともに、外部環境に存在する機会（Opportunity）や脅威（Threat）を整理します。
例えば、新規事業の立ち上げを検討する場合、製品の独自性や技術力を「強み」として活用し、顧客ニーズの変化や市場の成長性を「機会」として捉えます。一方で、競合他社の強力なブランド力を「脅威」として認識し、自社が抱える資金面の課題を「弱み」として考慮することが重要です。
SWOT分析は、特に経営戦略の初期段階で役立つツールであり、ビジネスプランの方向性を明確にする基盤となります。

2.3M

経営資源の3Mとは、「人（Men）」「物（Materials）」「金（Money）」という3つの基本要素を指し、事業運営で重要なリソースを見極める際に活用される概念です。これらの要素のどれかが不足すると、経営の成立が難しくなります。
そのため、経営の成功には、これらの資源を正確に把握し、効果的に活用する方法を検討することが大切です。一方で、業界や時代によっては、3M以外の要素も重視される場合があります。
たとえば、製造業では「市場（Market）」「方法（Method）」「計測（Measurement）」「機械（Machines）」を加えた7Mが採用されることもあります。また、情報や時間も経営資源として考えられる場合があります。重要なのは、自社の事業にとって必要な要素を特定し、それを基に適切なリソース配分を行うことです。

3.3C分析

3C分析は、顧客（Customer）、競合（Competitor）、自社（Company）の3つの視点から事業環境を分析し、競争力を高めるための戦略を立案するフレームワークです。
・顧客（Customer）： ターゲット顧客のニーズ、購買行動、購買力を詳しく分析
・競合（Competitor）： 市場で競争している他社の戦略、シェア、強み・弱みを評価する
・自社（Company）： 自社の内部資源、競争優位性、課題を整理する
例えば、新製品を市場に投入する際には、顧客のニーズに適合する価値を提供しつつ、競合との差別化を図ることが重要です。3C分析は、特に市場調査や新規事業開発の際に重宝されます。

4.ファイブフォース分析

ファイブフォース分析は、業界全体の競争環境を評価するためのフレームワークで、以下の5つの力（フォース）を分析します。
・業界内の競争（Rivalry among Existing Competitors）： 競合企業間の競争の激しさを評価する
・供給業者の交渉力（Bargaining Power of Suppliers）： 原材料やサービス供給業者の影響力を測る
・顧客の交渉力（Bargaining Power of Buyers）： 顧客が価格や条件に与える影響を分析
・新規参入の脅威（Threat of New Entrants）： 新規参入企業が業界に与える影響を予測する
・代替品の脅威（Threat of Substitutes）： 同じ機能を持つ代替製品の存在が市場に与える影響を検討する
これにより、業界の収益性や競争要因を理解し、自社のポジションを明確化できます。

5.PEST分析

PEST分析は、外部環境を4つの視点から分析するフレームワークで、以下の要因を考慮します。
・P（Political）： 政治的要因。政府の規制や法改正、国際関係など
・E（Economic）： 経済的要因。金利、為替、経済成長率などが分析対象
・S（Social）： 社会的要因。人口動態や文化、ライフスタイルの変化が焦点
・T（Technological）： 技術的要因。新しい技術やイノベーションの影響を検討する
この分析は、マクロな視点で市場の可能性を評価し、事業戦略に反映させる際に非常に役立ちます。

6.STP分析

STP分析は、マーケティング戦略を構築するためのフレームワークのことです。以下のステップで進めます。
・セグメンテーション（Segmentation）： 市場を特性ごとに分割し、顧客層を特定
・ターゲティング（Targeting）： 自社のリソースや製品特性に最も適したセグメントを選択
・ポジショニング（Positioning）： 顧客にとって独自の価値を明確にし、自社製品やサービスを差別化
このフレームワークは、特にターゲット市場が多様化している場合に有効です。

7.VRIO分析

VRIO分析は、自社のリソースや能力が持続的な競争優位性を持つかどうかを判断するためのフレームワークです。
・価値（Value）： 資源が市場で価値を提供できるか
・希少性（Rarity）： 他社が持たない独自のリソースであるか
・模倣困難性（Imitability）： 他社が簡単に模倣できないか
・組織（Organization）： 組織全体で活用されているか
これにより、自社の競争力を深く理解し、強みを活かす戦略を策定できます。

8.バリューチェーン分析

バリューチェーン分析は、企業の活動を「価値を生み出すプロセス」として分解し、それぞれの活動が競争優位性にどのように寄与しているかを評価するフレームワークです。主に以下の活動が含まれます。
・主活動（インバウンド物流、オペレーション、アウトバウンド物流、マーケティング、サービス）
・支援活動（インフラ、人材管理、技術開発、調達）
これにより、非効率な活動を特定し、改善の機会を見出すことが可能です。

9.PPM分析

PPM（プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント）分析は、事業や製品を市場成長率と市場占有率の2軸で評価し、4つのカテゴリに分類します。
・花形製品（Star）： 高成長・高市場占有率。重点投資対象
・金のなる木（Cash Cow）： 安定した収益源。維持が目的
・問題児（Question Mark）： 投資が必要な分野。成功の可能性を見極める
・負け犬（Dog）： 撤退や見直しが必要な事業
このフレームワークは、企業全体のリソース配分を最適化する際に有効です。

事業戦略の決定の際の3つの注意点

事業戦略を策定する際には、フレームワークを適切に活用するだけでなく、いくつかの重要なポイントを考慮する必要があります。戦略は企業の未来を左右するものであり、その決定における一つ一つのステップが大切です。以下では、特に注意すべき点を解説します。

自社に合ったフレームワークを使う

事業戦略を立案する際、フレームワークは非常に有用なツールです。しかし、自社の状況や目指すべき方向性に適したものを選ばないと、的外れな分析や誤った戦略を導き出すリスクがあります。
例えば、小規模なスタートアップ企業が大企業向けのフレームワークをそのまま適用しても、得られる結果は有効ではないかもしれません。そのため、自社の規模、業界、目的に合わせて最適なフレームワークを選定することが大切です。

フレームワークが目的にならないようにする

フレームワークはあくまで事業戦略を立案するための手段であり、目的そのものではありません。フレームワークを使うこと自体に集中しすぎると、本来の目的である「戦略の立案」が疎かになりがちです。
例えば、分析そのものに多くの時間を費やしてしまい、実際の行動計画や意思決定が後回しになるケースもあります。フレームワークを利用する際は、その目的を明確にし、効率的に活用する姿勢が求められます。

経営戦略から離れないようにする

事業戦略は経営戦略と密接に関連しています。経営戦略が企業全体の方向性を示すものであるのに対し、事業戦略はその具体的な実行計画に当たります。そのため、事業戦略が経営戦略と整合性を保つことが大切です。
例えば、経営戦略で「顧客満足度の向上」を掲げているにもかかわらず、事業戦略でコスト削減にのみ注力すると、結果として顧客満足度が低下する可能性があります。経営戦略を基盤にしつつ、現場レベルで実行可能な具体策を検討する必要があります。

まとめ

事業戦略の立案には、多様なフレームワークを活用することで、より明確で効果的な戦略を策定できます。しかし、フレームワークの選定や活用方法を誤ると、戦略の効果が半減するリスクも伴うでしょう。
そのため、自社の現状や目的に最適なフレームワークを選び、経営戦略と一貫性を保ちながら戦略を立案することが重要です。最終的には、フレームワークを活用した戦略立案を通じて、競争力の強化と目標達成に繋げることが求められます。

早坂遊羽

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株式会社koujitsu 取締役 COO

京都大学卒業後、大手SIerにてITコンサルタントとして従事。官公庁や大手民間企業のプロジェクトにおいてメンバーとして関わる中で、よりハンズオンの支援に携わりたいと考えるようになる。その後PRコンサルタント、事業会社広報、人材事業立ち上げを経てkoujitsuへ参画。現職ではマーケティング事業部を統括しながら、プレイヤーとしてクライアントのマーケティング戦略企画・実務運用にも携わっている。