現代のビジネス環境は、かつてないほど変化が激しく、不確実性に満ちています。このような環境下で企業が持続的に成長し、競争力を維持するためには、的確な「事業戦略」を策定し、実行に移すことが欠かせません。
自社の内部環境と外部環境を多角的に分析し、短期的な利益追求だけでなく、長期的な視野に立って計画を立てる必要があります。本記事では、事業戦略の基本的な概念や、その立て方における重要なポイント、具体的な手順、そして活用できるフレームワークについて詳しく解説します。

事業戦略とは

事業戦略とは、企業が目指すべき方向性を明確にし、持続的な成長や競争優位を実現するための中長期的な計画を指します。この戦略は、製品やサービスの開発、市場への参入、競合との差別化、リソースの最適配分など、多岐にわたる要素を含みます。
事業戦略を適切に策定することで、企業全体の意思統一が図られ、日々の意思決定に一貫性を持たせることが可能になります。特に、急速に変化する市場環境や技術革新の中では、事業戦略が持つ重要性は増しています。戦略を明確にすることで、企業は短期的な利益を追求するだけでなく、長期的な視野での価値創出を目指すことができます。
また、事業戦略は一度立てて終わりではなく、環境の変化や新たな課題に応じて見直しや改善を繰り返す必要があります。つまり、事業戦略は企業の成功を支える「羅針盤」の役割を果たし、不確実性の高い状況下でも明確な方向性を示す重要な要素です。

事業戦略の立て方の6つのポイント

事業戦略を効果的に策定するには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。これらのポイントを考慮することで、競争力を高める戦略の構築が可能になります。

①自社の強みを分析して生かす

自社の持つ独自の強み（Core Competence）を正確に把握し、それを事業戦略に組み込むことが不可欠です。強みとは、競合他社が容易に模倣できない要素や、顧客にとって特別な価値を提供できる部分を指します。
たとえば、特定の技術やノウハウ、ブランド力、優れた顧客基盤などが挙げられます。この強みを最大限に活用することで、競争市場において他社との差別化が図れます。

②多角的に分析する

効果的な事業戦略を立てるためには、一つの視点に偏らず、多角的な視点から状況の分析が欠かせません。市場の動向、競合他社の動き、顧客ニーズの変化、さらには政治的・経済的な環境要因までを含めて総合的に評価します。このような分析を通じて、潜在的なリスクを特定し、より現実的な戦略を策定することが可能となります。

③フレームワークに頼りすぎない

SWOT分析や3C分析、5F分析などのフレームワークは、事業戦略を構築する際に非常に役立つツールです。しかし、これらに過度に依存すると、柔軟性を欠いた戦略になる可能性があります。フレームワークをあくまで「参考」として利用し、自社の状況や目標に合わせた戦略を柔軟に設計することが大切です。

④トレンドに乗る

市場のトレンドや業界の変化への適応は、事業戦略を成功に導くために欠かせません。例えば、デジタルトランスフォーメーション（DX）やサステナビリティといった現代の主要なテーマを戦略に取り入れることは、競争優位性を築くうえで大いに役立ちます。

トレンドを積極的に活用することで、顧客の関心を引き、新たなビジネスチャンスを見つけることができます。

⑤認知バイアスがある前提で策定する

戦略を立てる際には、意思決定者の認知バイアスを考慮することが大切です。たとえば、過去の成功体験に固執したり、目先の情報に影響されることは避けるべきです。そのため、データや外部の専門家の意見を活用し、客観的かつ論理的な判断を心がける必要があります。

⑥実行後に分析・改善を繰り返す

事業戦略は、計画を立てて終わりではありません。戦略を実行に移した後、その成果を継続的にモニタリングし、必要に応じて改善を繰り返すことが求められます。このようなプロセスを通じて、戦略の精度が向上し、成功の可能性を最大化できます。PDCA（Plan-Do-Check-Act）サイクルを活用すると、改善をスムーズに進めることが可能です。

事業戦略の立て方の手順

事業戦略を効果的に策定し、実現するためには、明確な手順を踏むことが大切です。以下では、戦略策定から実行・改善までの5つの手順について詳しく解説します。

手順①目標やビジョンを明確に設定する

事業戦略を立てる第一歩は、目標やビジョンを具体的に設定することです。この目標やビジョンは、企業が長期的に目指す姿を明確にし、組織全体を同じ方向に導く羅針盤の役割を果たします。
目標を設定する際には、SMARTの法則（Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound）を活用すると効果的です。これにより、目標が具体的で達成可能なものであることを確認できます。
例えば、「3年以内に国内市場シェアを10％向上させる。」などといった目標を設定すると良いでしょう。目標が抽象的すぎると、実行計画が曖昧になり、組織内で混乱を招く可能性があります。そのため、具体的な数値や期限を設定することが大切です。
また、目標やビジョンは、組織の価値観や使命（ミッション）と整合性が取れている必要があります。これにより、組織の一体感を高め、社員のモチベーションを維持することが可能です。

手順②自社の現状分析を実施する

次に、自社の現状を正確に把握するための分析を行います。現状分析は、事業戦略を効果的に策定するための基盤となる大切なステップです。
現状分析には、内部環境と外部環境の両面を考慮します。
・内部環境分析：自社の強み、弱み、リソース（人材、技術、財務状況など）を評価
・外部環境分析：市場動向、競合状況、顧客ニーズ、規制や技術革新などを調査
これらのデータを整理する際には、SWOT分析や3C分析といったフレームワークを活用することが有効です。これにより、戦略策定に必要な課題やチャンスを明確化することができます。
たとえば、「自社の製品が高品質である一方、価格競争力が低いことが課題として浮かび上がる場合、それを解決するための施策を検討する。」などといったことになります。現状分析を通じて、企業がどのような状況にあるのかを客観的に理解し、その上で現実的な戦略を策定することが可能となります。

手順③複数の選択肢を考える

現状を分析した後は、達成可能な目標に向けた複数の戦略的選択肢を検討します。ここで重要なのは、1つの案に固執せず、幅広い視点でアイデアを出すことです。
戦略の選択肢を考える際には、以下のような観点を考慮します。
・短期的効果と長期的効果のバランス
・リスク分散
具体的には、新市場への参入、新製品の投入、既存顧客の維持強化、コスト削減施策など、さまざまな視点から戦略案を出し、比較・評価を行います。
たとえば、「国内市場での競争を強化する案と、新興市場への進出を目指す案を比較し、それぞれのメリット・デメリットを検討する。」などといったことになります。

手順④実現可能性を考える

複数の選択肢を検討した後、それぞれの実現可能性を評価します。実現可能性を判断する際には、必要なリソース、時間、コスト、リスクなどを総合的に検討します。
・コスト評価：戦略を実行するための資金や労力が見合っているか
・スケジュール評価：目標達成に必要な期間が現実的であるか
・リソース評価：必要な人材や技術が確保できるか
この段階で、優先順位を明確にし、実行可能な戦略を絞り込むことが大切です。また、戦略の効果を測定するためのKPI（重要業績評価指標）の設定も欠かせません。

たとえば、「新規事業に必要な初期投資が多額である場合、その投資がどの程度のリターンを生むかを詳細に分析し、実行可能性を検証する。」などといったことになります。

手順⑤実行し修正する

最終的に選択した戦略を実行に移します。ただし、戦略の実行は計画通りに進むとは限りません。そのため、実行後のモニタリングと修正が不可欠です。
たとえば、「新製品の販売計画が進捗していない場合、その原因を分析し、プロモーション戦略を見直す。」などといったことです。
実行段階では、以下のポイントを意識します。
・計画の共有
・進捗のモニタリング
・改善の実施
PDCA（Plan-Do-Check-Act）サイクルを活用することで、戦略の改善を効率的に進めることができます。また、失敗から学び、次回の戦略に活かすフィードバックループを構築することも重要です。

事業戦略を立てるのに役立つフレームワーク

事業戦略を策定する際には、さまざまなフレームワークを活用することで、分析の精度を高めることができます。以下では、代表的な3つのフレームワークである「SWOT分析」「3C分析」「5F分析」について、それぞれの特徴や活用方法を詳しく解説します。

①SWOT分析

SWOT分析は、内部環境と外部環境を整理し、企業の状況を包括的に評価するためのフレームワークです。この手法では、以下の4つの要素を分析します。
・Strengths（強み）：自社の優位性や競争力の源泉となる要素
・Weaknesses（弱み）：競争上の不利となる課題や改善が必要な点
・Opportunities（機会）：市場や業界の外部環境におけるポジティブな要素
・Threats（脅威）：競合の動きや市場の変化によるリスク要因
例えば、強みを活かして機会を取り込み、弱みを克服しながら脅威を回避する戦略を立てることが可能です。SWOT分析は、自社の現在のポジションを正確に理解し、最適な戦略を策定するための基盤を提供します。

②3C分析

3C分析は、事業環境を3つの視点から分析する手法で、マーケティングや経営戦略の立案に広く用いられています。このフレームワークでは、以下の3つの「C」に焦点を当てます。
・Customer（顧客）：ターゲットとする顧客層のニーズや購買行動を分析
・Competitor（競合）：競合他社の強みや弱み、シェア、戦略を評価
・Company（自社）：自社のリソースや差別化要因を検討
3C分析の強みは、顧客視点を重視する点です。顧客のニーズを正確に把握し、それに応える形で競合との差別化を図ることが戦略策定の要です。
活用例としては、自社製品がターゲットとする顧客層において、競合製品にない機能やデザインを提供することで市場シェアを拡大するなどといったことです。3C分析を活用することで、顧客ニーズを満たしながら競合に対して優位性を築くための具体的なアプローチを設計できます。

③5F分析

5F分析（ファイブフォース分析）は、マイケル・ポーターが提唱したフレームワークで、業界内の競争要因を5つの力（フォース）で分析します。この手法は、業界全体の競争構造を把握し、競争優位性を築くために役立ちます。
5つの要素は以下の通りです。
・業界内の競争（競争の激しさ）：同業他社間の競争強度を分析
・新規参入の脅威：新しい競合が参入する可能性
・代替品の脅威：顧客が他の製品やサービスに移行するリスク
・買い手の交渉力：顧客の価格交渉力や影響力
・供給者の交渉力：仕入先が持つ価格や条件の影響力
5F分析を活用することで、業界全体のリスクとチャンスを特定し、自社が有利に立ち回るための戦略を策定できます。
活用例としては、市場に新規参入者が増える場合、自社の既存顧客との関係を強化し、他社への流出を防ぐ施策を実行するなどといったことです。

まとめ

事業戦略は、企業が競争の激しい市場で成功を収めるために欠かせない要素です。本記事で紹介した6つのポイントや手順、フレームワークを活用することで、より効果的で実現可能な戦略を策定できます。戦略の成功は、一貫性と柔軟性を持って行動すること、そして実行後の分析と改善を繰り返すことにかかっています。
適切な事業戦略を立て、実行することで、企業は持続的な成長を遂げ、競争市場での地位を確立させることが可能です。この記事を参考に、自社に最適な戦略を構築し、さらなる飛躍を目指しましょう。

早坂遊羽

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株式会社koujitsu 取締役 COO

京都大学卒業後、大手SIerにてITコンサルタントとして従事。官公庁や大手民間企業のプロジェクトにおいてメンバーとして関わる中で、よりハンズオンの支援に携わりたいと考えるようになる。その後PRコンサルタント、事業会社広報、人材事業立ち上げを経てkoujitsuへ参画。現職ではマーケティング事業部を統括しながら、プレイヤーとしてクライアントのマーケティング戦略企画・実務運用にも携わっている。