経営戦略の策定は、企業が市場で成功するために欠かせないプロセスです。しかし、経営環境が複雑化し、競争が激化する中で、単なる勘や経験だけでは適切な戦略を立てるのが難しくなっています。
そのため、論理的かつ体系的なアプローチを支える「経営戦略のフレームワーク」の重要性が増しています。本記事では、経営戦略に役立つフレームワークについて解説し、基礎知識から活用方法までを詳しく紹介します。

経営戦略のフレームワークを利用する前の基礎知識

経営戦略のフレームワークを効果的に活用するためには、その背景となる基礎知識を理解しておくことが大切です。経営戦略の定義や目的、そしてフレームワークそのものの役割を把握することで、実際の活用がよりスムーズに進みます。以下では、これらの知識について詳しく説明します。

経営戦略とは

経営戦略とは、企業が長期的な目標を達成し、持続的な競争優位性を確立するための計画や方針を指します。マイケル・ポーターの「基本競争戦略」では、競争において成功を収めるための3つの戦略が示されています。コストリーダーシップ戦略は、製品やサービスを他社よりも低コストで提供することにより市場シェアを拡大する方法です。

差別化戦略は、製品やサービスに独自の価値を持たせることで顧客に選ばれることを目指します。集中戦略は特定の市場やセグメントに注力し、競争優位性を確立することに重きを置きます。このように、経営戦略は企業が競争環境で優位に立つための基盤となるものです。

経営戦略のフレームワークとは

経営戦略のフレームワークとは、戦略の立案や実行を体系的に進めるためのツールです。これらのフレームワークは、企業が直面する複雑な状況を整理し、適切な意思決定を行うための指針を提供します。

たとえば、SWOT分析では、内部環境と外部環境を整理して戦略を立てる際の重要な材料を提供します。また、ファイブフォース分析を活用すれば、業界内の競争要因を明確に理解し、どのような戦略を採用するべきかを検討できます。これらのフレームワークは、経営戦略を感覚的な判断に頼るのではなく、論理的に考えるための基盤を提供するものです。

経営戦略にフレームワークを使うメリット

フレームワークを活用することで、戦略立案が論理的かつ効率的に進められるようになります。データを基にした分析が可能になるため、感覚に頼ることなく、より客観的な意思決定が可能です。また、フレームワークは情報を整理しやすくするため、チームや組織内で共通の認識を持ちやすくなります。

これにより、全員が同じ方向を向いて行動することが可能となり、戦略の実行がスムーズに進む効果があります。さらに、複雑な課題や状況に対しても、フレームワークを通じて優先順位を明確にし、迅速な対応が可能となる点もメリットの一つです。

経営戦略にフレームワークを使うデメリット

一方で、フレームワークを使用することにはデメリットも存在します。最も大きなリスクは、フレームワークに過度に依存してしまうことです。フレームワークは状況を整理するツールに過ぎないため、それ自体が完璧な答えを提供するものではありません。依存しすぎると、柔軟な対応ができなくなり、想定外の事態に対処する能力が損なわれる可能性があります。

また、フレームワークを活用するには、専門的な知識や十分なリソースが必要です。特に、データ収集や分析には時間やコストがかかるため、これらのリソースが不足している場合には効果的に活用できない可能性があります。さらに、フレームワークの理解不足や誤用が原因で、誤った結論を導き出してしまうリスクもあります。これらの点に注意しながら、適切なフレームワークの活用が求められます。

経営戦略のフレームワークを紹介

経営戦略を体系的に立案するためには、多様なフレームワークを活用することが大切です。これらのフレームワークは、企業が直面する課題や市場環境を整理し、明確な行動計画を立てる際に役立ちます。本セクションでは、代表的なフレームワークを11種類紹介し、それぞれの特徴と活用方法について解説します。

①SWOT分析

SWOT分析は、内部環境と外部環境を「Strengths（強み）」「Weaknesses（弱み）」「Opportunities（機会）」「Threats（脅威）」の4つの要素に分類して分析する手法です。

強みと弱みは内部環境に焦点を当て、機会と脅威は外部環境を評価します。この分析により、企業がどのように強みを活かし、弱みを克服して市場の機会を最大限に活用するかを明確にできます。簡潔で汎用性が高いため、幅広い場面で活用されています。

②3C分析

3C分析は、「Customer（顧客）」「Company（自社）」「Competitor（競合）」の3つの視点から市場を分析するフレームワークです。顧客のニーズ、自社の強みと弱み、競合の戦略や市場シェアを比較することで、効果的なマーケティング戦略を構築できます。特に、競争優位性を確保するための市場分析に適しています。

③STP分析

STP分析は、「Segmentation（市場の細分化）」「Targeting（ターゲット選定）」「Positioning（ポジショニング）」の3つの段階でマーケティング戦略を立案する手法です。

まず市場をセグメント化し、特定のターゲットを選び、そのターゲットに対して独自の価値を提供するポジショニングを決定します。このフレームワークは、特に消費者向けビジネスにおいて顧客に響くメッセージを明確にするのに役立ちます。

④PEST分析

PEST分析は、「Politics（政治）」「Economy（経済）」「Society（社会）」「Technology（技術）」の4つの観点から外部環境を評価するフレームワークです。これにより、企業の戦略に影響を与えるマクロ環境要因を把握できます。特に、新市場への参入や事業拡大を検討する際に有用です。

⑤VRIO分析

VRIO分析は、企業のリソースや能力が競争優位性を持つかを評価するフレームワークです。「Value（価値）」「Rarity（希少性）」「Imitability（模倣困難性）」「Organization（組織対応力）」の4つの要素でリソースを評価し、競争優位を持続可能にする戦略を策定します。特に、内部資源の分析に適しています。

⑥4P分析

4P分析は、「Product（製品）」「Price（価格）」「Place（流通）」「Promotion（販売促進）」の4つの観点からマーケティング施策を検討するフレームワークです。製品戦略や価格戦略、販売チャネルの選定、販促活動を総合的に検討することで、効果的なマーケティングを実現できます。

⑦ファイブフォース分析

ファイブフォース分析は、マイケル・ポーターが提唱した業界の競争構造を分析するためのフレームワークです。「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「供給者の交渉力」「買い手の交渉力」「既存競合の競争」の5つの力を評価します。この分析により、業界内の競争環境を理解し、収益性の向上に向けた戦略を立案できます。

⑧PPM分析

PPM（プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント）分析は、事業や製品を「市場成長率」と「市場占有率」の2軸で評価し、資源の最適な配分を検討するフレームワークです。「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4象限に分類することで、どの事業に注力し、どの事業を撤退するべきかを判断できます。

⑨7S

7Sフレームワークは、企業の組織能力を「Strategy（戦略）」「Structure（構造）」「Systems（システム）」「Shared Values（共通の価値観）」「Skills（スキル）」「Staff（人材）」「Style（経営スタイル）」の7つの要素で評価する手法です。これらが適切に連携しているかを分析し、組織の改善や変革に活用します。

⑩基本競争戦略

基本競争戦略は、マイケル・ポーターによる「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の3つの戦略を指します。コストを最小化して競争優位を目指す方法、独自の価値で差別化する方法、特定の市場に特化する方法のいずれかを選択することで、効果的な戦略が構築できます。

⑪PDCAサイクル

PDCAサイクルは、「Plan（計画）」「Do（実行）」「Check（評価）」「Act（改善）」の4段階を繰り返し、業務プロセスを継続的に改善するためのフレームワークです。この手法は、戦略の実行段階で特に効果的であり、問題点を発見しながら柔軟な対応が可能です。

経営戦略のフレームワークを使う順序

経営戦略のフレームワークを効果的に活用するためには、適切な順序に従うことが大切です。フレームワークはあくまで戦略を構築するための手段であり、その過程を正しく進めることで、最大限の効果を発揮します。

最初のステップは、戦略の目的を明確にすることです。企業が解決すべき課題や達成したい目標を具体的に定めることで、フレームワークの選択が容易になります。たとえば、市場の競争環境を理解する必要がある場合にはファイブフォース分析、内部リソースの活用を検討する場合にはVRIO分析を選択するのが適切です。次に、必要なデータを収集し、それをもとにフレームワークを適用します。この段階では、分析結果に基づいて課題を整理し、解決策を検討します。

分析が完了したら、具体的な行動計画を立案し、実行に移します。計画の実行後はPDCAサイクルを活用して、結果を評価しながら継続的に改善を図ることが大切です。フレームワークを用いる順序を守ることで、分析が一貫性を持ち、具体的な戦略に結びつきます。このプロセスを繰り返し実行することで、企業の競争優位性が向上し、持続可能な成長が期待できます。

経営戦略にフレームワークを使用するときの注意点

経営戦略のフレームワークは非常に有用なツールですが、使用する際にはいくつかの注意点があります。まず、フレームワークに過度に依存しないことが重要です。フレームワークは分析を体系的に進めるための補助ツールであり、それ自体が完璧な答えを提供するものではありません。特定のフレームワークの結果を絶対視すると、状況の変化に対応できず、柔軟性を欠くリスクがあります。

また、フレームワークの選択には注意が必要です。状況や目的に応じて適切なフレームワークを選ばなければ、分析結果が有効な戦略に結びつかない場合があります。たとえば、新規市場参入を検討する際に内部リソースの分析を優先しても、競争環境の理解が不足していれば効果的な戦略を立案できません。

さらに、フレームワークを使用する際には、分析を行うための十分なデータとリソースが必要です。不完全なデータに基づいた分析は誤った結論を導き、戦略の失敗を招く可能性があります。そのため、データの信頼性や分析プロセスの透明性を確保することが求められます。

加えて、フレームワークの活用には専門知識が必要であり、利用する担当者が十分な知識を持っているかどうかも成功のポイントとなります。最後に、フレームワークの結果を共有し、組織全体で共通の認識を持つことが重要です。
フレームワークは意思決定を支援するツールであるため、関係者間で結果を共有し、全員が同じ方向を向いて行動することが求められます。これにより、戦略の実行がスムーズに進み、期待される成果を上げることが可能になります。注意点を踏まえた上でフレームワークを適切に活用することで、経営戦略の質と実行力を高めることができます。

まとめ

経営戦略のフレームワークは、企業が複雑な課題に対応し、競争優位を築くための重要なツールです。SWOT分析や3C分析など、さまざまなフレームワークを活用することで、戦略を体系的かつ論理的に策定できます。ただし、フレームワークに過度に依存せず、実際の状況や目的に応じて柔軟に活用することが成功へのポイントとなります。

早坂遊羽

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株式会社koujitsu 取締役 COO

京都大学卒業後、大手SIerにてITコンサルタントとして従事。官公庁や大手民間企業のプロジェクトにおいてメンバーとして関わる中で、よりハンズオンの支援に携わりたいと考えるようになる。その後PRコンサルタント、事業会社広報、人材事業立ち上げを経てkoujitsuへ参画。現職ではマーケティング事業部を統括しながら、プレイヤーとしてクライアントのマーケティング戦略企画・実務運用にも携わっている。