プロジェクトを計画的に進めるためには、全体の作業を把握し、明確なタスク管理を行うことが大切です。しかし、作業が整理されていなければ、進捗の遅れやトラブルが発生しやすくなります。そこで活用されるのがWBSです。
プロジェクトを細かい作業単位に分解し、全体像を整理することで効率的な管理を可能にします。本記事では、WBSの基本的な作り方やスプレッドシートを活用した手順、注意点を詳しく解説します。

WBSとは？

WBSは、プロジェクトを小さなタスクに分解し、それらを階層的に整理する方法です。これにより、プロジェクト全体の構造を明確化し、計画の効率性を向上させることができます。WBSは主にプロジェクトの計画段階で使用され、スケジュール作成やリソース配分の際に役立ちます。

活用する目的

WBSの目的は、プロジェクトの全体像を可視化することです。具体的には、プロジェクトに必要な作業を構造化し、実行可能な形に整理することで、計画段階から効率的にプロジェクトを進められるようにすることが目的です。
例えば、タスクを分解することで、抜け漏れを防ぎ、リソースの過不足を事前に見極めることが可能になります。こうした準備が整えば、プロジェクトがスムーズに進行し、予期せぬ問題に対処する時間的余裕も生まれます。

利用するメリット

WBSを利用することで、プロジェクト管理にいくつかのメリットをもたらします。第一に、チームメンバーが自分の役割を明確に把握できるため、作業効率が向上します。また、
細分化されたタスクによって、作業の進捗を可視化できるため、リスクの早期発見が可能です。さらに、シンプルな方法論で再現性が高く、新任のプロジェクトマネージャーでも活用しやすい点も挙げられます。このように、WBSはさまざまなプロジェクトで効果的に使える管理手法です。

WBSの作り方5つのステップ

WBSを作成するには、プロジェクトを効率よく進行させるための体系的な手法を理解し、計画に反映させることが大切です。ここでは、具体的な5つのステップを解説します。

①プロジェクトの目的を明確にする

WBSを作成する際に欠かせないのが、プロジェクトの目的を明確にすることです。プロジェクトの全体像を把握し、具体的な目標を設定することで、必要なタスクを効果的に洗い出すことができます。例えば、新しい製品を開発する場合、製品の基本的な機能やサービスの提供範囲を明確化し、それに基づいた計画が必要です。
これにより、関係者全員が共通の目標を持ち、一貫性のある進行が可能となります。このステップは、以降のWBS構築の基盤となるため、十分に時間をかけて取り組むべきです。

②タスクの洗い出し

プロジェクトの目的が明確になったら、それを実現するための具体的なタスクを洗い出します。このプロセスでは、プロジェクトを大きなフェーズに分け、それをさらに具体的な作業単位に分解することが必要です。
例えば、ウェブサイトの開発では、「デザイン」「コーディング」「テスト」など大きなカテゴリを設定し、それを細かく分割していきます。これにより、タスクの粒度が揃い、見落としを防ぐことが可能です。適切に分解されたタスクは、作業の進捗状況を明確化し、効率的なプロジェクト管理を実現します。

③タスクの順序と関連性を整理する

洗い出したタスクを整理し、実行順序と関連性を明確にすることが次のステップです。タスクの依存関係を正しく把握することで、効率的な作業フローを構築できます。例えば、設計書の作成が完了していないと、プログラムの開発に進めないように、順序や優先度を明確にする必要があります。
この整理を通じて、クリティカルパスを特定し、遅延リスクを最小限に抑えることが可能です。適切な順序付けは、タスク間の連携をスムーズにし、計画通り進行できるようになります。

④タスクを構造化する

タスクの順序が整理できたら、階層的に構造化します。ツリー構造で整理することで、プロジェクト全体の流れや細部を一目で把握することが可能です。例えば、親タスクの下に具体的な子タスクを配置し、視覚的に分かりやすい形にします。
この際、同じ階層内のタスクの粒度を揃えることが大切です。粒度がばらつくと、作業負担が不均一になる可能性があるため注意が必要です。構造化されたWBSは、プロジェクトの全体像を明確化し、チームメンバーの理解を助けるツールとして機能します。

⑤期日と担当者を設定する

最後のステップとして、各タスクに期日と担当者を設定します。これにより、責任の所在が明確化され、進捗状況を管理しやすくなります。期日はタスクの工数を考慮し、無理のないスケジュールを設定することが大切です。
また、各タスクに担当者を1人ずつ割り当てることで、責任が明確になり、効率的な作業分担が可能となります。例えば、デザイン制作のタスクでは、経験豊富なメンバーを担当者として指定することで、クオリティの高い成果が期待できます。このプロセスは、プロジェクト全体の成功を左右する大切な要素です。

WBSのスプレッドシートでの作り方6つのステップ

WBSをスプレッドシートで作成することで、視覚的にプロジェクト全体を管理しやすくなります。ここで解説する6つのステップで、効率的かつ正確にタスクを整理し、計画を実行できる環境を整えましょう。

①基本項目を設定する

まずは、スプレッドシートの基本項目を設定することから始めます。この作業では、WBSに必要な情報を整理し、見やすい形式で記録することが目的です。一般的には、「タスク名」「担当者」「開始日」「期限」「稼働日」「進捗率」などを列に分けて記載します。
基本項目を設定することで、プロジェクトの全体像を簡単に把握できる基盤が整います。例えば、A列にタスク名、B列に担当者、C列に開始日を設定することで、プロジェクトの詳細が視覚的に整理されます。項目を正確に定めることは、その後のプロジェクト管理をスムーズに進めるために欠かせません。

②カレンダーを作成する

次に、プロジェクト期間をカバーするカレンダーをスプレッドシートに作成します。カレンダーは日付や曜日を横軸に配置し、稼働日と非稼働日を明確に区別することで、スケジュール管理が簡単になります。
土日や祝日を条件付き書式で自動的に色分けすると、非稼働日を一目で確認でき便利です。例えば、J列以降に日付と曜日を入力し、条件付き書式を利用して土日を自動的に青色にする設定を加えます。このように視覚的に管理することで、スケジュール調整が簡単になります。

③階層構造を整理する

WBSのタスクを整理する際には、階層構造を活用するのが効果的です。親タスクを上位に配置し、その下に関連する子タスクを並べることで、タスク間の関係性がはっきりします。この作業で、タスクの全体像がわかりやすくなると同時に、チーム内での共有がスムーズになります。
例えば、「マーケティング」の親タスクの下に、「市場調査」「広告制作」などの子タスクを配置する形が適切です。視覚的に分かりやすい構造を作ることは、タスク管理の成功に繋がります。

④条件付き書式で視覚化する

スプレッドシートの条件付き書式機能を利用することで、タスクを視覚的に管理することができます。この機能を使うと、進捗状況やスケジュールが一目でわかるように色分けが可能です。例えば、開始日と期限を基に、その期間を色で表示する設定を行うことで、タスクの稼働期間を視覚化できます。
また、進捗率に応じてセルの色を変えることで、タスクがどの程度完了しているかを簡単に把握することが可能です。視覚的な工夫を加えることで、プロジェクトの状況が明確になります。

⑤タスク間の関連性を表現する

タスク間の依存関係を明確にすることは、プロジェクトのスムーズな進行に欠かせません。スプレッドシートでは、依存関係を矢印やセルの色分けで示すことで、タスクの順序や関連性を視覚的に整理することが可能です。
例えば、設計タスク完了後に開発タスクを開始するなどの関係性を色や記号で示します。これにより、依存関係が明確になり、作業の遅れやミスを防ぐことが可能です。タスク間の関係を視覚的に表現することで、プロジェクト全体の進行が把握しやすくなります。

⑥担当者を割り当てる

最後に、各タスクに担当者を割り当てることで、責任の所在が明確になり、進捗の遅延を防ぐことが可能になります。スプレッドシートでは、担当者を記入する列を設け、タスクごとに1人の責任者を設定するのが基本です。
例えば、デザイン作成のタスクには、適切なスキルを持つメンバーを割り当てることで、効率的に作業を進めることができます。担当者を明確にすることで、タスク管理がスムーズになり、プロジェクト全体の成功に繋がります。

WBSのシステム開発での作り方のコツ

システム開発プロジェクトでは、WBSの作成がプロジェクトの全体像を把握し、効率的に進行する役割を果たします。以下の3つのコツを活用することで、プロジェクトの成功率を向上させることが可能です。

簡潔で明確に書く

WBSのタスクは、簡潔で明確に記載することが大切です。曖昧な表現や抽象的な言葉では、チーム内で認識の違いが生じ、作業がスムーズに進まない原因となります。具体的でわかりやすい言葉を使うことで、チーム全員がタスクの目的や範囲を正しく把握できます。
例えば、「テストを行う」と書くより、単体テストの実施や結合テストケースの作成など具体的な内容を記載します。このように詳細化することで、作業内容が明確になり、計画の実行が円滑になります。

必要な情報をシンプルにまとめる

WBSは必要な情報を過不足なく、シンプルにまとめることが求められます。情報量が多すぎると、全体像が見えにくくなり、進捗管理が難しくなるため注意が必要です。親タスクの下に関連する子タスクを整理し、同じ階層にあるタスクの粒度を揃えるよう心がけます。
例えば、設計フェーズには、要件定義書の作成や画面設計のレビューなどの具体的なタスクを割り当て、詳細すぎる情報は省きます。このようにシンプルにまとめることで、チーム全体で簡単に状況を把握できるWBSの作成が可能です。

メンバーの意見を取り入れる

WBSを作成する際には、プロジェクトメンバーからの意見を積極的に取り入れることが大切です。プロジェクトの現場を熟知しているメンバーの視点を反映させることで、実行可能性の高い計画が作成できます。
例えば、開発チームに具体的な実装の工程を確認してもらったり、テストチームから必要な工数をヒアリングすることで、タスクの抜け漏れや過不足を防ぐことが可能です。こうした協働作業を行うことで、計画の信頼性が向上し、プロジェクト全体がスムーズに進行します。

WBSの作り方の注意点

WBSを活用してプロジェクトを成功に導くには、作成の際の注意点を押さえることが大切です。以下のポイントを考慮することで、計画の精度が向上し、実行フェーズでのトラブルを回避できます。

余裕を持たせたプロジェクトを計画する

WBSを作成する際には、余裕を持たせたスケジュールを立てることが大切です。タスクが計画通りに進行しない場合や、想定外の問題が発生するリスクを考慮する必要があります。余裕のない計画は、メンバーに過度な負担を強いるだけでなく、プロジェクト全体の遅延を招く原因にもなります。
例えば、各タスクにバッファ期間を設けることで、スケジュール全体に柔軟性を持たせることが可能です。このように余裕を持った計画を立てることで、突発的な変更にも対応しやすいプロジェクト運営が実現します。

タスク分解を怠らない

WBSの作成では、タスクを十分に分解することが不可欠です。細かく分解されたタスクは、全体像を把握しやすくし、進捗状況を正確に管理する基盤となります。一方、分解が不十分だと、作業内容が曖昧になり、進行中に混乱が生じかねません。
例えば、大規模な設計フェーズのタスクを、基本設計書作成やレビュー実施などに細分化することで、進行状況が可視化され、管理がしやすくなります。タスクの分解を徹底することが、プロジェクトの成功を支えるポイントです。

責任と担当者を明確にしておく

WBSでは、各タスクの責任と担当者を明確に設定することが欠かせません。誰がどのタスクを担当するのかを明確にしておかないと、責任の所在が曖昧になり、進捗が停滞する原因となります。そのため、タスクごとに担当者を一人ずつ割り当て、責任の範囲をはっきりさせることが大切です。
例えば、テスト環境のセットアップを担当するメンバーを明確にしておくと、そのタスクに関する問い合わせや進捗の確認がスムーズになります。責任の所在を明確にすることで、プロジェクト全体の計画がより実行力を持つようになります。

まとめ

WBSは、プロジェクトを成功に導くために欠かせない手法です。全体像を明確化し、作業を具体的なタスクに分解することで、進捗の可視化やリスク管理が簡単になります。基本的な5つの作成ステップやスプレッドシートでの6つの方法を押さえることで、より効率的な管理が可能です。
特にシステム開発では、簡潔さと明確さを重視し、メンバーの意見を取り入れることで、現場に即した計画を立案できます。さらに、計画段階では、余裕を持たせたスケジュール設定や十分なタスク分解、担当者の責任を明確化することがポイントです。これらを徹底することで、プロジェクトの成功確率を大幅に向上させることが可能になります。

早坂遊羽

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株式会社koujitsu 取締役 COO

京都大学卒業後、大手SIerにてITコンサルタントとして従事。官公庁や大手民間企業のプロジェクトにおいてメンバーとして関わる中で、よりハンズオンの支援に携わりたいと考えるようになる。その後PRコンサルタント、事業会社広報、人材事業立ち上げを経てkoujitsuへ参画。現職ではマーケティング事業部を統括しながら、プレイヤーとしてクライアントのマーケティング戦略企画・実務運用にも携わっている。