企業が成長し、長期的に成功を収めるためには、明確な戦略が必要です。その中でも「事業戦略」と「経営戦略」は、組織の方向性を決める重要な役割を担います。
しかし、これらの戦略はしばしば混同されがちで、それぞれの違いを理解して適切に活用することが求められます。本記事では、事業戦略と経営戦略の違いを明らかにし、そのバランスの取り方や実際に使える経営戦略の種類について詳しく解説します。

事業戦略と経営戦略の違い

事業戦略と経営戦略の違いを理解することは、企業が成功するための第一歩です。これらはどちらも企業運営の重要な柱ですが、その役割や目的が異なるため、正しく区別して活用することが求められます。

経営戦略とは

経営戦略（Corporate Strategy）は、企業全体の方向性や長期的な目標を定める戦略です。この戦略の主な目的は、企業がどのような事業分野で活動し、どのような資源配分を行うべきかを決定することです。具体的には、新しい市場への進出、既存事業の撤退、または買収や提携といった大きな意思決定が含まれます。
経営戦略は、企業のトップマネジメントによって策定されることが一般的であり、その影響は全社的な範囲に及びます。そのため、経営戦略は企業のミッションやビジョンと密接に関連し、長期的な競争優位性を確立する役割を果たします。

事業戦略とは

事業戦略（Business Strategy）は、経営戦略の枠組みの中で、各事業部門や特定の市場における具体的な競争方法を決定する戦略です。この戦略の目的は、特定の市場や顧客セグメントで競争優位を築くことです。
例えば、ある事業部門が価格競争を行うのか、それとも製品の差別化を図るのかを決定するのは事業戦略の役割です。このように、事業戦略は現場に近いレベルで策定され、顧客ニーズや競合動向に基づいた柔軟な対応が求められます。

経営戦略と事業戦略の違い

経営戦略と事業戦略の違いを理解するためには、それぞれの適用範囲と目的を比較する必要があります。
・適用範囲の違い
経営戦略は企業全体を対象としており、どの事業に資源を配分するかといった広範な意思決定を行います。一方、事業戦略は個別の事業部門や市場に焦点を当て、それぞれの競争力を高めるための具体的なアクションを計画します。
・目的の違い
経営戦略は、企業全体の長期的な成長と持続可能性を目指すのに対し、事業戦略は、特定の事業や市場での短期的な成果や競争優位の確立を目指します。
・策定者の違い
経営戦略は主にトップマネジメントが策定するのに対し、事業戦略は各事業部門の責任者が主導して作成します。このように、策定者の視点や専門性が異なります。

両戦略の連携の重要性

経営戦略と事業戦略は、個別に存在するものではなく、密接に関連しながら機能します。経営戦略が企業の大枠を決定する一方で、事業戦略はその中で具体的な行動計画を設計します。そのため、経営戦略が曖昧であれば事業戦略が迷走する可能性があり、逆に事業戦略が実行されなければ経営戦略の実現も困難です。

経営戦略が必要な4つの理由

経営戦略がなぜ必要なのかを考えるとき、現代のビジネス環境における課題が背景にあることが分かります。以下は、経営戦略が欠かせない理由を挙げたものです。

1.市場環境の変化に対応するため

ビジネス環境は、技術革新や顧客ニーズの多様化、競争の激化などによって急速に変化しています。これらの変化に対応するためには、企業が長期的な視点で市場動向を見極め、適応する能力が必要です。経営戦略は、こうした変化に対して企業の方向性を示し、競争力を維持するための道筋を立てる役割を果たします。

2.限られたリソースを最大限に活用するため

企業が持つ資源（人材、資本、時間）は限られているため、最適に配分し、成果を最大化するための指針が経営戦略です。例えば、どの事業に重点的に投資するのか、新しい市場に進出するべきか、現状維持を選択するべきかといった判断を下す際に、経営戦略が重要な指針となります。

3.競争優位を築くため

競争が激化する現代の市場では、企業が競争優位を確立し、持続的な成長を実現することが求められます。経営戦略を通じて、他社との差別化を図る独自の強みを明確化し、それを活用して市場で優位なポジションを築くことが可能になります。

4.長期的なビジョンを実現するため

経営戦略は、企業が描く長期的な目標やビジョンを達成するための道筋を明確にします。日々の運営に追われる中でも、経営戦略が存在することで、企業全体が統一された方向に向かって進むことができます。

事業戦略と経営戦略のバランス

企業が持続的に成長するためには、事業戦略と経営戦略のバランスをうまく取ることが必要です。これら2つの戦略は互いに補完し合うものであり、一方に偏りすぎると効果を十分に発揮できません。

事業戦略に偏るリスク

特定の事業に注力しすぎると、企業全体の成長方向が不明確になりがちです。たとえば、新たな技術革新や市場の変化が必要な時でも、既存事業に固執するあまり変化への対応が遅れることがあります。

経営戦略に偏るリスク

一方、経営戦略ばかりに目を向けすぎると、現場の実情が軽視される可能性があります。抽象的なビジョンや計画が現場の状況に合致しない場合、戦略が実行に移されないこともあります。

理想的なバランスの取り方

事業戦略と経営戦略のバランスをうまく取るための方法を解説していきます。

全体像の把握

経営戦略で企業全体の方向性を明確にし、その中で事業戦略を細分化することが大切です。これにより、全社的な一貫性を保ちながらも、個別の事業が柔軟に動ける体制を整えることができます。

目標の整合性

経営戦略と事業戦略の目標を一致させることが大切です。経営層と現場が連携を取り合い、共通のゴールに向かって進むことで、効果的な戦略運営が可能になります。

継続的な見直し

外部環境の変化や市場ニーズの変動に応じて、両戦略を見直すプロセスを定期的に行うことも欠かせません。
このように、事業戦略と経営戦略を適切に統合しバランスを取ることで、短期的な成果と長期的な成長を同時に実現が可能です。

経営戦略のレベルや規模の違い

企業の経営戦略は、その規模や目的に応じて異なる階層で構築されます。ここでは「全体戦略」「事業戦略」「機能戦略」という3つのレベルについて詳しく解説します。それぞれの戦略は、企業活動を効率化し、競争優位を確立するための重要な役割を果たします。

1.全体戦略

全体戦略（コーポレート戦略）は、企業全体の方向性を決める最上位の戦略です。この戦略は、企業が長期的に目指すべきミッションやビジョンを明確にし、どの事業分野に投資を集中させるのか、または撤退するのかといった大きな意思決定を含みます。
例えば、多国籍企業が新興市場への進出を決定したり、非収益部門の縮小を行ったりする場合、これらは全体戦略の一環です。全体戦略は、企業の経営陣がトップダウンで進めるものであり、資源の最適な配分を図ることが主な目的となります。この戦略が成功すると、企業全体の持続的な成長が可能になります。

2.事業戦略

事業戦略（ビジネス戦略）は、全体戦略に基づいて、各事業部門が競争優位を築くための戦略です。この戦略の焦点は、特定の市場や顧客セグメントでどのように戦うかにあります。たとえば、ある製品ラインが低価格を武器に競争する場合や、高品質で差別化を図る場合、それは事業戦略の一部です。
事業戦略では、競合他社との比較分析や市場の動向を考慮し、最適な戦術を選択します。この階層の戦略は現場に近いため、顧客の声や競争環境に敏感である必要があります。また、事業戦略の成否は、収益性や市場シェアの拡大に直接的な影響を与えます。

3.機能戦略

機能戦略は、事業戦略を具体化するための部門別の戦略です。たとえば、マーケティング部門では広告キャンペーンの実施やブランディングを、製造部門では生産工程の効率化や品質管理を計画します。このように、機能戦略は企業の各機能（部門）が連携し、全体の目標達成に向けて行動するための具体的なガイドラインを提供します。
機能戦略の成功には、各部門が独自の専門知識を活かしつつ、他部門と連携して一貫性のある行動を取ることが大切です。これにより、企業全体の戦略が統一され、効率的に実現されることを目指します。また、日々の業務レベルでの改善やプロセスの最適化が求められるため、現場スタッフの協力も不可欠です。

競合企業に対する6つの経営戦略

競合企業との競争を勝ち抜くためには、自社の強みや市場の特性を踏まえた適切な戦略を選択し、実行することが必要です。ここでは、特に注目される5つの経営戦略とその他の戦略について詳しく解説します。

1.集中戦略

集中戦略は、特定の市場や顧客セグメントに経営資源を集中させるアプローチです。この戦略は、自社が得意とする分野に焦点を当て、競争優位を築くことを目的としています。たとえば、特定の地域や年齢層をターゲットにした商品やサービスを提供することで、その分野でのシェアを拡大します。
小規模な企業が大手企業と直接対抗するのは難しい場合がありますが、集中戦略を採用することで、自社が競争優位を築きやすいニッチな市場で存在感を発揮できます。また、この戦略ではターゲット顧客のニーズを深く理解し、それに合った価値の提供が欠かせません。

2.価格戦略

価格戦略は、価格を競争力の要とする戦略です。低価格戦略では、コスト削減を徹底することで、競合よりも安価な商品やサービスを提供します。これにより価格志向の消費者を引き付け、市場シェアを拡大します。
一方、高価格戦略では、高い付加価値を伴った商品やサービスを提供し、利益率の向上を目指します。高価格戦略を採用する場合は、品質やブランド力など、顧客が高い価格に納得する理由を明確にする必要があります。このように、価格戦略は自社のポジショニングやターゲット層に合わせて調整することが求められます。

3.差別化戦略

差別化戦略は、競合他社との差別化を図ることによって競争力を高める方法です。この戦略では、独自の価値を持つ商品やサービスを提供することで、価格競争を避け、顧客からの支持を得ることを目指します。
たとえば、最新の技術を活用した製品開発、卓越したデザイン、優れたカスタマーサービスなどが差別化戦略の一環です。この戦略を成功させるためには、顧客がその違いを実感できるように明確な価値提案を行うことが大切です。

4.多角化戦略

多角化戦略は、新たな市場や事業分野に進出することで事業ポートフォリオを拡大し、リスクを分散する方法です。多角化には、既存の事業と関連性のある分野に進出する「関連多角化」と、全く新しい分野に進出する「非関連多角化」の2種類があります。
たとえば、関連多角化では、既存の技術やリソースを活用して新商品を開発することが挙げられます。一方、非関連多角化では、全く異なる業界や市場に進出することで、経済の変動や特定市場のリスクを軽減します。

5.グローバル化戦略

グローバル化戦略は、国際市場への進出を目指す戦略です。国内市場だけでなく海外市場でも競争力を発揮するために、輸出、現地法人設立、合弁事業など、さまざまな方法が採用されます。
この戦略を成功させるためには、異文化への適応力や現地市場のニーズを把握する能力が求められます。また、グローバル規模での経済やコスト削減を活用することも重要です。

6.その他の経営戦略

これらの5つの戦略に加え、企業連携やイノベーション戦略なども重要な経営戦略として挙げられます。企業連携では、合併や提携を通じて他社のリソースや能力を活用し、競争力を高めます。一方、イノベーション戦略では、新製品や新技術の開発に注力し、競争環境の変化に対応します。

まとめ

経営戦略は、競争優位を確立し、持続的な成長を実現するために欠かせない要素です。集中戦略、価格戦略、差別化戦略、多角化戦略、グローバル化戦略の5つのアプローチを適切に活用し、自社の強みを最大限に引き出すことが求められます。また、企業の状況や市場環境に応じて、その他の戦略も組み合わせて活用することで、より効果的な経営の実現が可能です。

早坂遊羽

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株式会社koujitsu 取締役 COO

京都大学卒業後、大手SIerにてITコンサルタントとして従事。官公庁や大手民間企業のプロジェクトにおいてメンバーとして関わる中で、よりハンズオンの支援に携わりたいと考えるようになる。その後PRコンサルタント、事業会社広報、人材事業立ち上げを経てkoujitsuへ参画。現職ではマーケティング事業部を統括しながら、プレイヤーとしてクライアントのマーケティング戦略企画・実務運用にも携わっている。