
新規事業は成長のきっかけとなる一方で、大きな不確実性も抱えています。市場の変化が急に起きたり、思うように資金が集まらなかったり、予定していた技術が使えなくなったりすることがあります。こうした事態に適切に対応できなければ、 […]
新規事業は成長のきっかけとなる一方で、大きな不確実性も抱えています。市場の変化が急に起きたり、思うように資金が集まらなかったり、予定していた技術が使えなくなったりすることがあります。こうした事態に適切に対応できなければ、期待していた成果を出す前に、事業が止まってしまう可能性さえあります。
この記事では、新規事業に関係する主なリスクを網羅的に整理し、実際の進め方に取り入れやすいように、管理の方法をわかりやすく紹介します。自社の状況にあわせたリスク対策の方針を立てる際の参考にしてください。
新規事業リスク分析の重要性
新規事業では、短い期間で多くの人や資金を使いながら意思決定を進めていく必要があります。そのため、早い段階でどのようなリスクがあるのかを整理し、数字で比較しながら優先順位を決めておくことが大切です。たとえば、発生する可能性が高いものや、影響が大きくなりそうなものには、先に時間や予算を多く使って対応策を講じるべきです。
また、リスクの内容と対策を明らかにしておくことで、出資者や取引先など外部の関係者に対しても、事業の進め方について納得を得やすくなります。こうした信頼の獲得は、資金を集めたり、新しい協力先を得たりする際に効果的です。
リスク分析を省略したまま事業を始めてしまうと、後になって予想外の費用がかかったり、信頼を失って売上が減ったりするおそれがあります。そうしたトラブルが起きると、最終的には会社全体の経営にも影響が出る可能性があります。
新規事業における主要リスク10選
新しい事業には、予測が難しい多くの課題が存在します。たとえば、急な技術の進歩や法律の変更など、一つの要因が複数の問題を引き起こすことがあります。そのため、考えられるリスクをあらかじめ洗い出し、影響が大きいものや発生しやすいものを整理して優先的に対処しなければなりません。
十種類の代表的なリスクを知っておくことで、抜けや漏れのない対策が進められます。さらに、これらのリスクは一度確認して終わりにするのではなく、事業の進み具合に応じて定期的に見直すことが求められます。リスクの状態や発生の兆しを日頃から確認しておけば、早めに対応することができ、結果として余分な費用や損失を防げるようになります。
1.市場環境リスク
新規事業では、顧客の関心が急に変わったり、市場の規模が予想よりも小さかったりすることがあります。このような事態は、売上計画に大きく影響し、事業の継続が難しくなる原因にもなります。とくに、競合他社が同じような商品を短期間で出してきた場合、価格競争や認知度の差によって自社の商品が選ばれないこともあります。
こうしたリスクに備えるには、定期的に顧客の声や検索の傾向を調べて、市場の動きを細かく把握することが必要です。さらに、予想と違った反応が見られた場合には、すぐに販売の方法や商品の内容を見直せるようにしておくことで、変化への対応力が高まります。
2.戦略リスク
事業の方向性を間違えてしまうと、資金や人材をいくら投入しても、成果が出ないまま終わってしまうおそれがあります。たとえば、顧客層の選定がずれていたり、強みとするべき点が競合と変わらなかったりすると、思うような売上につながりません。
このような事態を防ぐには、事業を始める前に、市場の動きや競合の強みを丁寧に調べておく必要があります。また、事業計画が正しく機能しているかを、定期的に振り返る仕組みも重要です。市場や顧客の変化にあわせて、柔軟に方針を見直す姿勢が求められます。
3.財務・資金調達リスク
資金の不足は、新規事業において最も深刻なリスクの一つです。予定よりも開発に時間がかかったり、収益が思ったように出なかったりすると、資金の流れが滞ってしまい、事業を継続できなくなる可能性があります。
こうした問題を避けるには、資金計画を細かく立てることが必要です。毎週のように現金の出入りを確認し、予想とずれた場合にはすぐに対応できるようにしておきます。また、資金の調達先も一つに頼るのではなく、いくつかの選択肢を持っておくことで、急なトラブルにも柔軟に対応できます。
4.技術・イノベーションリスク
新しい技術を使った製品やサービスを開発する場合、その技術が十分に安定していなければ、完成が遅れたり、品質に問題が出たりすることがあります。とくに、まだ実績のない技術を使うと、動作の不具合や想定外のトラブルが起こる可能性が高まります。
これを避けるには、開発の初期段階で試作品をつくって動作確認を行うことが大切です。また、技術に詳しい外部の専門家に相談して、内容を点検してもらうと安心です。特許や技術の権利にも注意し、使ってはいけないものを誤って使用しないよう、開発の進め方と調査体制をあらかじめ整えておく必要があります。
5.人材・組織リスク
新規事業は、少人数のチームで進められることが多いため、必要な人材が不足したり、途中で辞めてしまったりすると、大きな影響が出ます。また、役割があいまいなまま進めると、意思決定に時間がかかり、作業のやり直しや混乱が生じることもあります。
このリスクを防ぐためには、メンバーごとに担当する役割や責任を明確にし、チーム全体で共有することが重要です。また、必要なスキルを育てる研修を行い、働きがいのある仕組みを整えて、離職を防ぐことも求められます。状況に応じて外部の専門人材を活用することも、柔軟な対応につながります。
6.オペレーションリスク
商品の生産や品質管理、出荷の手順に問題があると、顧客からの信頼を失ってしまうことがあります。たとえば、納期が遅れたり、不良品が混ざったりすると、対応のための時間やコストが増えて、利益に悪影響が出ます。
こうしたリスクを減らすには、作業の手順を文書でまとめておき、全員が同じやり方で作業できるようにしておくことが基本です。また、設備の状態を日ごろから確認し、問題があればすぐに対応できるような仕組みも必要です。サプライヤーとも品質や納期の約束を共有し、協力体制を築くことが大切です。
7.法規制・コンプライアンスリスク
新しい商品やサービスを始める際には、法律や業界の決まりに違反していないか確認する必要があります。とくに、法改正や規制の強化にすぐに対応できないと、事業の中止や罰則につながる場合があります。また、社内のルールが守られていないと、信用の低下やトラブルを引き起こす原因になります。
このリスクを減らすには、専門知識を持つ人材や法律の専門家を交えて、新しい法律や規則の動きを常に確認する仕組みが必要です。また、社内研修を定期的に行って、全社員が正しい行動を理解している状態を保ちます。問題が起きたときの通報制度や対処手順も、あらかじめ整えておくことが重要です。
8.社会・環境リスク
環境への負荷やプライバシーの扱いに問題があると、世間からの批判を受けることがあります。その結果、会社の評判が下がったり、罰金を課されたりすることがあります。また、社会的な取り組みに対して無関心であると、投資家や消費者からの評価が下がり、資金調達が難しくなることもあります。
こうしたリスクを防ぐには、会社として環境や社会に対する考え方を明確にし、それを行動に反映させることが求められます。たとえば、使う素材の影響を調べたり、取引先の労働環境に問題がないか確認したりすることが大切です。そうした取り組みを社外にも伝えることで、信頼性のある企業として評価されます。
9.災害・BCPリスク
地震や台風などの自然災害、大規模な感染症の流行などは、工場の停止や商品供給の遅れなど、事業全体に影響を与える可能性があります。こうした事態が発生すると、売上の減少や信用の低下につながる恐れがあります。
災害への備えとして、複数の拠点を活用した生産体制や、データを保管する体制を整えておくことが必要です。さらに、緊急時にすぐ動けるように、訓練を定期的に行い、復旧の手順を共有しておきます。また、代替となる仕入先の確保や在庫の適正な管理も、事業を止めないための対策として重要です。
10.評判・ブランドリスク
顧客からの信頼や世間での評判は、事業の成長に大きな影響を与えます。もしも悪い情報が広まったり、対応が遅れたりすると、顧客が離れてしまい、売上や採用活動にまで影響が出る可能性があります。
このリスクを防ぐには、日ごろから社外への説明や対応のルールを決めておき、問題が起きたときに迅速に対応できる体制を整えることが必要です。また、ネット上の情報を常に確認しておき、誤解や不正確な情報が広まる前に対応する仕組みを設けておくと、被害を最小限に抑えることができます。
リスク分析の5つの手順とフレームワーク
新しい取り組みでは、想定外の問題が複数発生する可能性があります。一つの問題が、他の部分にも影響することで、全体の計画が崩れてしまうことがあります。そのため、事前にリスクを見つけて優先順位をつけ、数値で分析する仕組みを整えることが重要です。
ここでは、主観に頼らず、だれが見ても同じ結論になるような分析方法を紹介します。手順を標準化し、関係部署と情報を共有することで、再現性のある判断が可能になります。さらに、定期的に見直すことで、精度を高めながらリスクへの対応を続けられます。
1.リスクの洗い出しとスクリーニング
まずは、どのような問題が起きそうかを洗い出す作業から始めましょう。関係者同士で話し合ったり、リストを使ったりして、思いつく限りのリスクを書き出します。次に、それらを分野ごとに分けて整理し、発生の可能性や影響が小さいものは除きます。
残ったリスクは、まとめて記録しておきましょう。重複しているものは統合し、情報の抜けがないか関係する部署とも確認します。この作業を丁寧に行うことで、後の分析の精度が高まります。
2.リスク評価とマッピング
絞り込んだリスクについて、それぞれがどのくらいの頻度で起きるか、起きた場合にどれだけ影響があるかを数値で評価します。たとえば5段階の評価基準を使って点数をつけ、その結果を縦横の図にまとめます。
図にすることで、重要なリスクをひと目で見つけやすくなり、判断が早くなります。また、評価の基準は事前に決めておくことで、担当者ごとのばらつきを減らせます。環境の変化に合わせて定期的に見直すと、より正確な評価ができます。
3.リスク優先順位付けと定量分析
評価図で特に重要だと判断されたリスクには、優先して対応します。さらに詳しく調べるために、計算を使って影響の大きさを予測する手法を活用します。たとえば、損失の範囲をシミュレーションで調べたり、どの要素が影響しているのかを確認したりします。
この結果をもとに、予算や人員の配分を決める材料とします。数字に基づいた情報を提示すれば、経営の意思決定が早くなり、実行に移しやすくなります。
4.リスク対応策の立案
見つけたリスクには、避ける、減らす、ほかに任せる、受け入れるなどの対応があります。その中から適切な方法を選び、だれが、いつまでに、何をするかを明確にした行動計画をつくります。
また、実行の進み具合を確認するために、数値の目標と確認表を用意します。会議などで定期的に進み具合をチェックし、うまくいっていない部分はすぐに修正を行います。
5.モニタリングと継続的改善
対応策を実行した後も、定期的にその効果を確かめる必要があります。状況が変わったり、別のリスクが見えてきたりすることがあるため、改善は継続的に行うことが大切です。
情報はまとめて一つの画面で確認できるようにし、一定の数値を超えた場合は自動で知らせる仕組みを整えます。こうした流れを日常の業務に組み込めば、リスクに強い組織をつくることができます。
新規事業のリスクマネジメントに効果的な5つのポイント
新しい取り組みには不確実な要素が多く、事前の計画だけではすべてに対応できません。リスク対策を実際に機能させるには、組織全体でルールや体制を整えることが大切です。
ここでは、リスクへの対応をより効果的にするための5つの工夫を紹介します。それぞれの内容はすぐに導入できるものであり、社内での取り組みを強化するためのヒントとなります。
1.組織ガバナンスと責任分担
リスクへの対応には、組織内の役割分担をはっきりさせることが欠かせません。全体を統括する委員会をつくり、責任者を決めて運営することで、意思決定がスムーズになります。
担当者には明確な目標を設定し、その達成状況をもとに評価を行えば、責任感が高まります。また、複数の部署に関係するリスクについては、横断的なチームで管理することで、対応の抜け漏れを防ぐことができます。
2.危機管理マニュアルとコミュニケーション
予期せぬ事態が起きたとき、対応の早さが結果を大きく左右します。そのため、あらかじめマニュアルを整えておくことが重要です。役割や連絡手順を明確にした文書を全員が見られるようにしておきます。
年に数回、想定シナリオに沿った訓練を行い、手順の不備を見つけて改善することも大切です。また、社外への説明に備えて、発信窓口を一本化することで混乱を防ぐことができます。
3.KPI・KRIの設定とダッシュボード運用
リスクの兆しを早くつかむには、数字による管理が効果的です。売上や利益のような成果指標だけでなく、開発の遅れや品質問題のような予兆となる指標も設定します。
こうした情報は、ひと目で確認できる仕組みにまとめておきます。問題があれば自動で通知が届くようにすれば、見落としを防げます。日々の見直しと改善提案を反映しながら、管理の質を高めていきます。
4.協力会社・外部専門家との連携
自社だけでリスクを管理するのは難しい場合もあります。法務や会計などの専門知識が必要な分野では、外部の専門家と連携することが効果的です。
契約やガイドラインを定期的に見直す機会をつくり、必要に応じて助言を受けることで、対策の抜けを防げます。また、他社の事例を学ぶことで、思わぬリスクに気づくこともあります。
5.事業撤退ライン・出口戦略設計
新しい取り組みには失敗の可能性もあるため、撤退の基準を最初に決めておくことが重要です。利益や市場の数字など、複数の判断基準を設けて、続けるかやめるかを冷静に判断できる仕組みを整えます。
やめると決めた場合も、順序立てて対応すれば混乱を減らせます。経験や反省を記録して次の事業に生かすことで、組織としての学びを積み重ねることができます。
新規事業の失敗・成功事例から学ぶリスク低減の4つのコツ
他社の成功や失敗の体験には、新しい取り組みに役立つ多くの学びがあります。過去の事例から、どのような判断が良かったのか、あるいはどこに問題があったのかを整理すれば、自社の取り組みに応用できます。ここでは、特に参考となる四つの実例を紹介します。いずれも教訓が明確で、次に備えるための実践的なヒントとなります。
1.大企業の新規事業失敗事例
ある大企業では、既存の資産や経験に頼りすぎたことで、市場のニーズを見誤りました。設備や流通網を強みと考えていたものの、実際には顧客の期待に応えられず、売上が計画の半分に落ち込みました。
意思決定の仕組みが複雑で、最新の情報を反映するまでに時間がかかったことも問題でした。販売不振が続いたにもかかわらず、撤退の判断が遅れたことで損失が拡大しました。月ごとに方針を見直す体制があれば、三割の費用削減が可能だったと推計されています。
2.スタートアップのPivot成功事例
ある若い企業は、サービスの利用者数が期待より少なかった段階で、早く方向を変える判断をしました。すぐに仮説を立て直し、顧客を再定義して機能の開発に集中したことが成果につながりました。
日々のデータを確認する体制が整っていたことで、対応が遅れずに済みました。限られた予算の中で黒字化を実現し、外部からの資金に頼らずに成長できた事例です。このように、柔軟で素早い判断は成功の要因となります。
3.フレームワーク活用でリスクを抑えた事例
中堅企業の一例では、環境の変化に早く気づける分析手法を活用することで、事前に対応を進められました。規制の強化を見越して対策を立てたことで、余計な費用をかけずに済みました。
定期的に情報を整理し、評価の基準を明確にすることで、直感に頼らず合理的な判断が可能になりました。数値に基づく検討は、どの課題に優先して取り組むかを明確にし、無駄な資源の投入を避ける効果があります。
4.補助金活用による財務リスク軽減事例
ある企業は、公的な資金支援制度を活用して、開発にかかる費用の一部を補いました。その結果、手元資金に余裕が生まれ、新たな取り組みにも積極的に対応できました。
助成制度の利用後は、進捗の管理を徹底することでリスクを減らしました。資金繰りを安定させながら開発を進められたこの事例は、外部の支援を上手に取り入れることの重要性を示しています。
まとめ
新しい事業を始めるときには、さまざまな不確実な要素が発生します。そのような中でも、事前にリスクを整理し、優先順位を明確にしたうえで対応策を実行すれば、大きな損失を防ぐことができます。
効果的な体制をつくるためには、組織の意思決定のしくみと、外部の専門家との協力をうまく組み合わせることが必要です。加えて、あらかじめ撤退の条件を決めておくことで、経営資源を無駄に使わずに済みます。
継続的に対策を見直しながら仕組みを整えていけば、変化の大きな市場環境にも柔軟に対応できます。さらに、過去の経験を次の取り組みに生かすことで、会社全体の安定性と競争力を高めることが可能になります。

koujitsu編集部
マーケティングを通して、わたしたちと関わったすべての方たちに「今日も好い日だった」と言われることを目指し日々仕事に取り組んでいます。