はじめに 従来、企業をターゲットとする企業間取引(BtoB)では、経済的合理的経営判断を経てから顧客になるため、商談を担当する営業部門が大きな力を持っていました。しかし、現在ではマーケティング部門との協業が求められていま […]
はじめに
従来、企業をターゲットとする企業間取引(BtoB)では、経済的合理的経営判断を経てから顧客になるため、商談を担当する営業部門が大きな力を持っていました。しかし、現在ではマーケティング部門との協業が求められています。また、一般消費者をターゲットとするBtoCでも、デジタル化が進むにつれ、営業をはじめとする人的販売活動が後退し、マーケティング部門の比重が増しています。それはターゲット属性が時代と共に変化してきているからです。
BtoBではターゲットをリード(Lead)と呼び、BtoCとは異なる施策を展開しています。この記事では、BtoBとBtoCでのマーケティング活動の違いと、BtoBでのマーケティング部門と営業部門の協業の必要性を、リードを中心に紹介していきます。
MQLとSQLとは?基礎から理解しよう
MQLとSQLとは
MQLとSQLの違い | |
MQL | SQL |
潜在顧客層から獲得した見込み顧客のうち
「高い購買意欲」をもつリード |
MQLのうち
「高い受注確度」が見込めるリード |
マーケティング部門と営業部門の協業が求められるBtoBマーケティングにおいて、特徴的なターゲット像であるMQLとSQLとは何でしょうか?
「MQL」とは、Marketing Qualified Leadの頭文字をとった略で、マーケティング活動で獲得したリードのうち、「購買意欲が高い」と判断された見込み顧客を示します。
「SQL」とは、Sales Qualified Leadの頭文字をとった略で、MQLと判断された見込み顧客のうち、営業部門が「受注確度が高い」と判断し、案件化を目指すリードを示します。
リード(Lead)とは
ターゲット属性の違い | |
BtoCマーケティング | BtoBマーケティング |
「顕在」顧客層 | 「潜在」顧客層=リード(lead) |
検索等を通じて
ニーズ・課題が既に明確になっている |
ニーズ・課題が未だ不明確な状態 |
リード(Lead)とは、見込み客を示すビジネス用語で、一般的に企業間取引であるBtoBでつかわれ、一般消費者をターゲットとするBtoCでは使われません。それは同じ見込み客でも、両者でターゲットとする顧客属性が上記のように大きく異なるからです。
BtoBのターゲットはいまだニーズ・課題が不明確であるため、その変化・育成がマーケティングのポイントとなります。そこで、ニーズ・課題の明確性や内容の違いで見込み客をMQLやSQLと設定して適切なマーケティング施策を展開できるようにしているのがBtoBマーケティングです。
マーケティング部門と営業部門の協業とは
▼マーケティング部門と営業部門の協業
潜在顧客層をMQLやSQLに育成し、顧客をスムーズに獲得できるようにするため、上記のような流れで、マーケティング部門と営業部門が協業・連携することが求められます。
こうした連携は「ダブルファネル」と呼ばれ、BtoBの特徴的なマーケティング施策となっています。
BtoBマーケティングのダブルファネルとは | ||||||
インサイド・セールス(デマンドジェネレーション) | フィールド・セールス | |||||
マーケティング部門が担当 | 営業部門が担当 | |||||
見込み客
獲得 |
見込み客
育成 |
見込み客
選定 |
見込み客
引継ぎ |
商談 | 成約(受注) | 再購買 |
「ダブルファネル」とは、ファネルが2個連続するマーケティング施策です。ファネルとは、英語で「じょうご」を意味し、展開される施策に対して反応するターゲットが絞り込まれていく様を示しています。ダブルファネルでは、潜在顧客層を顧客に育成するため、マーケティング部門と営業部門でそれぞれ異なる役割を果たすことが求められます。
▼BtoBマーケティング(ダブルファネル)の全体像~MQLとSQLの位置づけ
「潜在」顧客層から成約に至った顧客までステップごとにターゲットが絞り込まれていくことがわかります。このダブルファネルで絞り込みがスムーズに進むよう、MQLやSQLを明確に定め、適切なマーケティング施策を設計しなければなりません。
MQLとSQLを設定することで得られるメリット
MQLとSQL設定のメリット | |
効果面のメリット | 費用面のメリット |
・営業の顧客アプローチ数増加
・新規商談数増加 ・営業担当が付加価値をつけて提案できる ・受注率<V向上 |
・マーケティング予算の適切な配分 |
MQLとSQLを設定し、展開すべきマーケティング施策と担当すべき部門を明確に分けることで、営業部門の比重が大きかった従来のBtoBマーケティングに比べ、効果面でも費用面でも大きなメリットが生まれています。
h3.営業の顧客アプローチ数増加
MQLとSQLを設定することで、多くのリードの中から担当者が目検でチェックする必要がなくなるため、アプローチ先を効率的に増やせます。一定の客観的基準を設けることで、判断に費やす時間が減り、その分テレアポや営業メールといった本来の営業活動に割ける時間が増えるため、結果的にアプローチ量の増加にもつながります。
新規商談数増加
MQLは事前に定めた基準をもとに機械的に識別し、営業に引き渡されます。インサイド・セールスとフィールド・セールスが、ターゲットを絞り込んでアプローチするため、飛び込み営業等、営業部門の専業だった従来のBtoBマーケティングに比べ、商談数の増加が見込めます。
営業担当が付加価値をつけて提案できる
商品・サービスにある一定の興味関心を持っているMQLでも、商品・サービスの購入が確定していない上に、顧客側で予算感や解決したい課題が明確になっていない場合も多く存在します。顧客の課題や予算感をヒアリングしながら、より良い解決策を提案することで、売上やリピート率の向上に繋げられます。
受注率<V向上
マーケティング部門から営業部門がリードを引き継いだ時点で、高い購買意欲と受注確度を持った見込み顧客に絞り込まれているため、商談に持ち込める機会は、飛び込み営業と比較し、大幅に増加します。また、企業ごとの経営課題発見と共有、カスタマイズされた価値提供に注力できるようになったため、継続的な取引関係構築の機会も増えました。その結果、営業部門が単体でアプローチするより、受注率はもちろん、LTV(顧客生涯価値)も向上します。リードが、いわゆる「お得意様」になることで安定した収益源を確保できるため、LTV向上はマーケティングの最大目標の一つです。
マーケティング予算の適切な配分
MQLとSQLを設定することで、潜在顧客層を具体的な顧客までスムーズに育成できるようになりました。デジタル化の進展で検証・分析の正確性も向上したため、展開されたマーケティング施策がリード獲得・育成にどのように貢献しているかをStepごとに把握でき、従来以上に適切な予算配分が可能になっています。
MQL・SQLの判断基準:見込み顧客をどう評価するか
MQLとSQLは、どのように判断すれば良いでしょうか。この判断基準が緩いと、営業側のアプローチに支障をきたしたり、逆に基準が厳しすぎると、十分なリードを確保できなかったりするため、MQL・SQLの判断基準は重要です。
MQLの判断基準
MQLとは、購買意欲の高い見込み顧客です。購買意欲の高さは、その行動で顕在化したり、その属性で推定できたりします。そこで、MQLの判断基準として具体的な行動基準と属性基準を紹介します。
㊀MQLの行動基準
- Webサイトへの複数回の訪問
- 料金ページへの訪問
- サービス、製品の資料請求
- セミナー(ウェビナー)の参加
- サービスへの質問・問い合わせ
- メールの開封
などは行動を通じて「高い購買意欲」が顕在化していると考えられます。
㊁MQLの属性基準
- 業界
- 業種
- 企業規模
- 担当者の役職
- 決裁権
などは属性を通じて「高い購買意欲」が推定できます。
SQLの判断基準
SQLとは、受注確度の高い見込み顧客です。受注確度の高さは、行動で顕在化するものではなく、会社での立場や地位から推定できます。そこで、SQLの判断基準として「BAND情報」と呼ばれる属性基準を紹介します。
SQLの属性基準「BAND情報」とは以下の通りです。
- Budget(予算):製品・サービスを導入するための予算はどれくらいあるか
- Authority(決裁権):稟議を承認する決裁権限を持つのはだれか
- Needs(必要性):どのような課題があるか、どんな製品・サービスを求めているか
- Timeline(導入時期):いつまでに課題を解決したいか
MQL・SQLの質を上げ、増やす具体的な施策
▼BtoBマーケティング(ダブルファネル)の流れと展開すべき施策全体像の例
BtoBマーケティングは、ニーズ・課題が不明確な潜在顧客層から経済的、合理的な経営判断を経た顧客になるまで、その意思決定過程に応じてスムーズな移行を促す適切な施策を展開しなければなりません。
その過程は大きく4つのStepに分かれ、図表にすると上記のようになります。
マーケティング部門担当のStep
Step1:見込み顧客「獲得」段階:「狭義」のリードジェネレーション
Step2:見込み顧客「育成」段階:リードナーチャリング
Step3:見込み顧客「選別」段階:リードクオリフィケーション
営業部門担当のStep
Step4:顧客「獲得」段階:フィールド・セールス
見込み顧客「獲得」段階でのマーケティング施策
この段階は潜在顧客層から見込み客を獲得するもので、展開すべきマーケティング施策は以下の通りです。
- Web広告、SNS広告
- オウンドメディア
- コンテンツマーケティング
- イベント(展示会・セミナー)
- セミナー/ウェビナー
- ホワイトペーパー
など、顧客との接点となる情報を集め、顧客リストをつくることがこの段階のマーケティングの大きな目的です。
見込み顧客「育成」段階でのマーケティング施策
この段階は見込み客を購買意欲の高いMQLに育成するもので、展開すべきマーケティング施策は以下の通りです。
- メルマガ配信
- セミナー/ウェビナー
- リターゲティング広告
- 無料相談会
- インサイド・セールスによる架電
獲得したばかりの見込み顧客は、いまだ受注に至る可能性は低いため、継続的にコミュニケーションすることで教育し、購買意欲を高めてMQLへ育成します。
MQLの質をあげるポイントは以下の通りです。
- MQLの定義を明確にする
マーケティングと営業の認識のずれを避けるため、具体的な条件を書き出します。
- MA(マーケティング自動化)ツールで効率的にスコアリング
見込み顧客の行動を数値化し、効果測定や分析を行います。
- マーケティングと営業の連携強化
顧客の購買意欲が高い時に迅速に引き継ぎ、CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援ツール)などで成果を可視化します。
見込み顧客「選別」段階でのマーケティング施策
この段階はMQLから受注確度の高いSQLを選別するもので、展開すべきマーケティング施策は以下の通りです。
- 分析
- シナリオ設計
- スコアリング
- セグメント
育成して購買意欲を高めたMQLを行動や属性でセグメントし、数値化してスコアリングすることで、営業担当者が直接アプローチするに値する受注確度の高いSQLに絞り込みます。
SQLの質をあげるポイントは以下の通りです。
- SLA(サービス品質保証)の遵守率を測定し改善する
SLAの遵守率をKPIとしてモニタリングし、改善を図ります。改善が見られない場合は関係者間で再調整します。
- ターゲット企業ごとにSQLを設定
初回商談で情報をヒアリングし、BANT(Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期))などの営業フレームワークを用いてSQL基準を設定します。
- SQLの創出を目的としたコンテンツ
マーケティング部門は顧客向けコンテンツ作成や営業ツール開発でSQL創出をサポートします。
顧客「獲得」段階(フィールド・セールス) でのマーケティング施策
フィールド・セールスとは、SQLへの商談で成約に結びつけることで、展開すべきマーケティング施策は以下の通りです。
- 商品・サービスのカスタマイズ
- 契約金額や保証、アフターサービス等の成約条件のすり合わせ
BtoBは、その契約金額の高さや、BtoCにはない経済的合理的経営判断を経る必要があるため、SQL企業ごとの経営課題を発見・共有し、提供価値のカスタマイズと成約条件のすり合わせが求められます。
部門間の連携を強化するためのポイント
部門間の連携を強化するポイントは以下の通りです。
- 定期的なミーティングの実施
週次または月次でマーケティング部門と営業部門がミーティングを行い、リードとMQL・SQLの一致を確認します。
- 継続的なKPIの確認
SFA(営業支援ツール)を用いてMQLやSQLのKPI(創出数、遷移率)を定期的に確認し、自社のトレンド変化を把握します。
- 営業リソースに応じた基準の調整
営業リソースの変動に応じて、MQLとSQLの基準を見直し、マーケティングと営業部門が積極的にコミュニケーションを取ります。
まとめ
リードを中心に、BtoBとBtoCのマーケティングの違いや、マーケティング部門と営業部門の役割の変遷、その協業の必要性を紹介してきました。こうした変化は90年代半ばのインターネットの普及や、2010年代のSNSの隆盛をキッカケとして起こりました。これに匹敵する変化がAIとロボティクスの登場により2015年頃から始まっています。
リードをターゲットとするBtoBで展開されるべきマーケティング施策や、マーケティング部門と営業部門の協業の形も大きく変わることが避けられません。これからマーケティングを始める方や既にマーケティングを担当している方もこうした変化に対応していくことが求められます。