新規事業の立ち上げは、企業にとって革新と成長の大きなチャンスですが、その過程には多くのリスクと課題が伴います。特に、スタートアップとして事業を開始する場合、資金不足やノウハウの欠如、競争の激化といった壁に直面することが少なくありません。しかし、こうした困難を乗り越えるための支援策が近年充実してきています。

本記事では、新規事業のスタートアップについて、その基本的な定義や特徴、支援方法、そして成功事例までを詳しく解説します。これからスタートアップを目指す方や、支援を活用したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

新規事業のスタートアップとは？

スタートアップとは、新しいアイデアや技術を活用し、急速な成長を目指す企業を指します。その多くは新興産業や未開拓市場を対象としており、独自のビジネスモデルを構築することで、市場に大きな変革をもたらすことを目標としています。
一般的にスタートアップは、小規模なチームや限られた資源からスタートしますが、革新的な発想を武器にして競争力を高め、投資家の注目を集めることが特徴です。

また、スタートアップは高いリスクを伴う反面、大きな成功を収める可能性があるため、国内外で多くの起業家や投資家が注目しています。現在では、AIやブロックチェーン、グリーンテクノロジーなどの分野で、多数のスタートアップが注目されています。

スタートアップ企業とベンチャー企業の違い

スタートアップとベンチャー企業は、どちらも新しい事業を手がける企業として認識されていますが、実際には明確な違いがあります。その違いを理解することは、自社の目標や事業戦略を明確にするうえで大切です。
スタートアップ企業は、新しい市場を創造し、短期間で急成長を目指すことを主な目的としています。特に革新的な技術やサービスを活用し、従来のビジネスモデルを大きく変革させることを目指します。一方、ベンチャー企業は特定の市場で収益を上げながら、持続可能な成長を目指すことが多く、リスクを抑えた事業運営を重視します。

スタートアップ支援の3つの種類

スタートアップ支援には、企業が成功を収めるための多くの種類があります。その中でも代表的な3つの支援は以下のとおりです。

1.補助金や助成金の支援

スタートアップ企業にとって、補助金や助成金は事業を開始するうえで非常に重要な資金源です。これらの支援は、政府や地方自治体によって提供されており、特に研究開発や雇用創出を目的としたプロジェクトに対して適用されることが多いです。例えば、IT分野での新技術開発や地方創生を目的とした事業などが対象となります。補助金を活用することで、資金的な負担を軽減し、事業拡大に専念できる環境を整えることが可能です。

2.投資支援

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの投資支援は、スタートアップの成長を加速させる重要な手段です。資金提供に加えて、投資家からは事業戦略やネットワークの提供など、非金銭的なサポートも受けられます。ただし、投資を受ける際には、投資家の意向や要求に応じた事業運営が求められることが多く、経営の自由度が制限される可能性もあります。

3.セミナーの受講やイベントの開催

スタートアップ向けに開催されるセミナーやイベントは、起業家同士の交流やノウハウの共有の場として非常に有益です。これらのイベントでは、業界の最新トレンドや成功事例を学ぶことができるだけでなく、投資家や事業パートナーと出会うチャンスも広がります。特にピッチイベントでは、自社のアイデアをアピールし、資金調達につなげることが可能です。

スタートアップの4つの特徴

スタートアップ企業には、他の企業形態には見られない独自の特徴があります。その中でも、以下の4つが代表的なものです。

1.新しいビジネスを展開していること

スタートアップ企業の最大の特徴は、これまでの市場には存在しなかった斬新なアイデアや技術を基盤にしたビジネスを展開する点です。従来の枠組みを超えるサービスや商品を提供することで、新しい市場を創出し、他社との差別化を図ります。例えば、AIを活用したプラットフォームやブロックチェーン技術を応用した金融サービスなどがその例として挙げられます。

2.企業が急成長を目指していること

スタートアップは、短期間での市場シェア拡大や収益の最大化を重要視しています。スピーディな意思決定と柔軟な経営戦略が求められ、時にはリスクを取ってでも急成長を目指します。この特徴は、従来型の安定志向のビジネスモデルとは対照的です。

3.社会へ大きく貢献できること

多くのスタートアップ企業は、社会的課題を解決することを目標としています。たとえば、環境問題の解決に取り組む再生可能エネルギー事業や、医療分野で新しい治療法を提供する企業など、事業そのものが社会に与える影響が大きいことが特徴です。

4.出口戦略を検討している

スタートアップは、事業を成功させた後の出口戦略（エグジット）を明確に持っています。具体的には、IPO（新規株式公開）やM&A（企業買収・合併）を通じて、投資家や経営者が利益を得ると同時に、新たな成長ステージへ進むことを計画しています。この戦略が、スタートアップの成長に向けた大きな原動力となっています。

新規事業でスタートアップ支援を受ける3つのメリット

スタートアップ支援を活用することで、新規事業の成功確率を高めるだけでなく、成長を加速させることが可能です。支援は、資金調達やノウハウの提供など、多岐にわたる形で提供されます。このセクションでは、スタートアップ支援を受けることで得られる具体的な3つのメリットを解説します。

1.支援企業からノウハウを学べる

スタートアップ支援を受ける最大の利点の一つが、成功した企業や専門家からノウハウを学べる点です。支援企業や投資家は、過去の成功体験や失敗を通じて得た知識を共有してくれることが多く、事業計画の作成や市場分析の手法を学ぶ絶好の機会となります。
こうした実践的な知識は、事業の初期段階で起こりがちな課題を迅速に解決するのに役立ちます。また、専門家によるアドバイスは、競争が激しい市場で差別化を図るための貴重な資源にもなります。

2.事業が成長するチャンスになる

スタートアップ支援を受けることで、通常よりも早いペースで事業が成長する可能性が高まります。例えば、ベンチャーキャピタルからの資金提供を受けることで、マーケティングや商品開発に多くのリソースを投入することができます。
また、支援企業が持つネットワークを活用することで、新たなビジネスパートナーや顧客との関係構築が進みます。特に競争の激しい業界では、こうした外部リソースが成長の鍵となる場合が少なくありません。

3.支援を無料で受けられる

補助金や助成金を活用すれば、資金面での負担を大幅に軽減できます。これらの支援は返済義務がないため、経済的なリスクを抑えながら事業の拡大が可能です。
また、セミナーやネットワーキングイベントといった無料のサポートも、スタートアップにとって有益です。
これらの機会を利用することで、初期投資を抑えつつ必要な知識やスキルを得ることができます。支援を効果的に活用することで、限られたリソースで最大の成果を得ることができます。

新規事業でスタートアップ支援を活用する注意点

スタートアップ支援を活用することで、多くのメリットを享受できますが、同時にいくつかのリスクや注意点も存在します。これらを事前に理解し、適切な対応策を講じることが、長期的な成功につながります。以下では、代表的な3つの注意点について詳しく解説します。

投資家により経営の自由度が制限される可能性がある

スタートアップが外部からの投資を受ける場合、資金提供者である投資家の意向が経営に影響を与えることがあります。投資家は利益の最大化を目的としているため、経営方針や事業戦略の変更を求める場合があります。
このような状況では、創業者が目指していたビジョンや理念が損なわれる可能性があります。そのため、投資を受ける際には、事前に投資家との目標や価値観の一致を確認することが大切です。

独自性のあるアイデアが出てこない

外部の支援に頼りすぎると、自社独自の創造性やイノベーションが失われるリスクがあります。特に、支援企業や投資家の提案やアドバイスに過度に依存することで、独自性が薄れ、他社との差別化が難しくなることがあります。
スタートアップ企業にとって、競争力の源泉はオリジナリティにあります。支援を受ける際は、自社のアイデアやビジョンをしっかりと守りながら、必要な部分だけを取り入れるバランスが大切です。

補助金や助成金は必ず申請されるわけではない

政府や地方自治体が提供する補助金や助成金は、スタートアップにとって魅力的な支援ですが、すべての申請が通るわけではありません。補助金には応募条件や審査基準が設定されており、競争率が高い場合もあります。
また、申請手続きには時間と労力がかかるため、無駄に終わるリスクも考慮する必要があります。そのため、申請書類の準備やプロセスの計画を慎重に行い、複数の選択肢を検討することが求められます。

新規事業でスタートアップを受けた企業の5つの事例

スタートアップ支援を受けて成功を収めた企業は、数多く存在します。これらの企業は、革新的なアイデアや優れた戦略を武器に、新しい市場を切り開いてきました。本セクションでは、日本を代表する5つのスタートアップ企業を取り上げ、それぞれの成功事例について紹介します。

1.スマートニュース株式会社

スマートニュースは、ニュースやクーポン情報を無料で提供するアプリを運営している企業で、全世界で5,000万以上のダウンロードを達成しています。2012年設立以来、ニュースメディアと提携し、多彩なコンテンツを配信。幅広いユーザー層に利用されており、20代から50代までの日常生活やエンタメ、経済、世界情勢などの情報を提供しています。特にコロナ禍で米国ユーザーが急増し、2021年には米国展開を強化するために大規模な資金調達を実施しました。

2.株式会社メルカリ

メルカリは、日本最大級のフリマアプリを提供し、月間利用者数が2,000万人を超える規模を誇ります。2013年に設立され、スマートフォンが普及し始めた時期に、個人間での売買を可能にする革新的なプラットフォームを構築しました。膨大な情報の中から欲しい商品を見つけられるテクノロジーを活用し、限りある資源を循環させるという創業者の理念を形にしたサービスです。インターネット技術を駆使した成功例として、幅広いユーザーに支持されています。

3.ラクスル株式会社

ラクスル株式会社は、ネットを通じて簡単に印刷物を注文できるシステムを提供する企業です。2009年に設立され、資金調達や事業拡大を進めながら2019年には東証一部上場を果たしました。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という理念のもと、デジタル化が遅れていた印刷業界にIT技術を導入。これにより、小規模な印刷需要を効率的に取り込むことに成功し、既存の産業とテクノロジーの融合を実現しました。現在も海外展開を進め、成長を続けています。

4.株式会社Preferred Networks（プリファード・ネットワークス）

Preferred Networksは、日本を代表するAIベンチャー企業で、機械学習や深層学習を活用し、交通、製造業、ライフサイエンス、ロボティクスなど幅広い分野で革新を目指しています。2017年にはトヨタ自動車との自動運転技術の共同開発で105億円、2019年にはエネルギー業界での最適化研究で10億円の資金調達を行いました。社員の約8割が技術者であることから、高い技術力を背景に多業界での応用が進んでいます。評価額は3,539億円に達し、国内トップクラスのスタートアップです。

5.株式会社SmartHR

SmartHRは、人事・労務の業務効率化を支援するクラウドソフト「SmartHR」を提供する企業で、ペーパーレス化や手続きの簡素化を通じて企業の働きやすい環境づくりを支援しています。「誰もがその人らしく働ける社会」を目指し、2021年には156億円の資金調達を実施しました。評価額は1,732億円に達し、入社手続きや年末調整などの業務を効率化するほか、外部サービスとの連携も容易に行える点が特徴です。

まとめ

新規事業をスタートアップとして成功させるためには、適切な支援を活用することが大切です。スタートアップには革新性や成長性といった魅力がある一方で、注意すべき点も存在します。補助金や投資支援、セミナーといったサポートを活用することで、リソース不足や知識の欠如といった課題を解決できます。

また、成功事例から学ぶことで、自社の事業戦略にも応用可能な知見を得られます。長期的な視点で計画を練り、自社の強みを活かしながら新規事業の成長を目指しましょう。

早坂遊羽

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株式会社koujitsu 取締役 COO

京都大学卒業後、大手SIerにてITコンサルタントとして従事。官公庁や大手民間企業のプロジェクトにおいてメンバーとして関わる中で、よりハンズオンの支援に携わりたいと考えるようになる。その後PRコンサルタント、事業会社広報、人材事業立ち上げを経てkoujitsuへ参画。現職ではマーケティング事業部を統括しながら、プレイヤーとしてクライアントのマーケティング戦略企画・実務運用にも携わっている。