財務分析は、企業の財務諸表を基に経営状態を多角的に評価する手法です。貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などを活用し、安全性や収益性、生産性、成長性などの観点から企業の強みや課題を把握します。この分析は、内部の経営戦略を立てる際の大切な基盤となるだけでなく、投資家や取引先への情報提供にも役立ちます。
さらに近年では、生成AIを活用した財務分析が注目されており、より迅速かつ高度な洞察を得られるようになっています。本記事では、財務分析の基本から最新手法までを詳しく解説します。

財務分析とは？

財務分析とは、企業の財務諸表（貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書など）をもとに、企業の経営状況を多角的に評価するプロセスを指します。この分析を通じて、企業の財務的な健全性や収益力、資金の流れを客観的に把握し、将来の意思決定に活用することができます。
財務分析の目的は、現状を把握し、課題を特定し、改善の道筋を立てることです。これにより、経営者は合理的な戦略を策定し、企業価値の最大化を目指すことが可能になります。また、内部的な意思決定だけでなく、外部のステークホルダーへの情報提供にも役立つ点が特徴です。

財務分析を行うメリット

財務分析を行うことで得られるメリットは多岐にわたります。以下にその主要なポイントを挙げます。
1つ目のメリットは、企業の現状を客観的に把握できることです。財務諸表を基にした分析により、収益性や安全性などの大切な指標を数値で示すことができます。これにより、経営上の問題点や課題が明確になり、適切な意思決定を下すための土台を築くことが可能です。
2つ目のメリットとして、企業の競争力を向上させるための具体的な戦略立案が挙げられます。他社との比較分析や業界基準との比較を行うことで、自社の立ち位置を正確に把握し、適切な改善策を実行することができます。
さらに、財務分析は外部のステークホルダーにとっても欠かせな欠かせない役割を果たします。たとえば、投資家は分析結果をもとに企業の成長性や収益力を判断し、資金提供を行うかどうかの意思決定を下します。また、金融機関は融資のリスクを評価する際に、企業の財務分析データを活用します。
最後に、財務分析は未来の経営計画を構築する際にも欠かせない役割を果たします。短期的な成果だけでなく、長期的な成長戦略を見据えた計画を立てるための基礎となります。このように、財務分析を実施することは、経営者にとっても企業の全体的なパフォーマンスを高めるために不可欠なプロセスです。

財務分析に欠かせない財務3表とは？

財務分析を行う上で、最も大切な資料となるのが「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の3つの財務諸表です。これらは、それぞれ異なる視点から企業の経営状態を示し、財務の健全性や収益力、資金の流れを評価するための情報を提供します。以下で、それぞれの財務諸表を詳しく解説します。

貸借対照表（B/S）

貸借対照表は、企業の財政状態を一定時点で示す資料です。ここでは、企業が保有する資産と、負債、純資産の関係が明らかになります。資産は現金や在庫、不動産など、企業が所有するすべてのリソースを指します。
一方、負債には借入金や未払い金などが含まれ、企業が他者に対して負っている債務を表しています。そして、資産から負債を差し引いた純資産の部分が、企業の自己資本を示します。
貸借対照表は、企業の財産全体を「静的」な視点で評価するのに適しています。たとえば、自己資本比率を計算することで、企業がどの程度借入金に依存しているかを確認できるため、財務の安定性を判断する欠かせない指標となります。

損益計算書（P/L）

損益計算書は、一定期間内の企業の経営成績を明らかにする資料です。この財務諸表を通じて、企業がどれだけ収益を上げ、どれだけの費用をかけたかを把握できます。最初に売上高として、その期間内に得た収益の総額が示され、次に売上原価として製品やサービスの提供に直接かかった費用が計上されます。
この差額から、営業活動の利益である営業利益が算出されます。
さらに、営業利益に金融収支やその他の収益を加えることで経常利益が計算され、最終的に税金などを差し引いた後の当期純利益として、その期間に企業が得た最終的な利益が明らかになります。この損益計算書を分析することで、企業の収益性やコスト構造の効率性を判断することができます。

キャッシュフロー計算書（C/F）

キャッシュフロー計算書は、一定期間内の現金の流れを詳細に示す資料です。この財務諸表では、営業活動、投資活動、財務活動の3つの観点から現金の流れを記録しています。営業活動によるキャッシュフローは、日々の事業活動から得られる収入や支出を示します。これがプラスである場合、企業が本業で利益を生んでいることを意味します。
一方、投資活動によるキャッシュフローでは、新しい設備や資産の購入や売却など、長期的な事業計画に関連する資金の動きを示しています。この情報は、企業が成長のためにどの程度投資を行っているかを評価するのに役立ちます。
さらに、財務活動によるキャッシュフローでは、資金調達や返済に関連する現金の流れを把握できます。借入金の増減や配当金の支払いなどがこれに該当します。
キャッシュフロー計算書を分析することで、企業が健全な資金繰りを維持しているかどうかや、外部資金にどの程度依存しているかを確認することができます。

財務分析のやり方と4つの観点

財務分析を効果的に行うためには、複数の視点から企業の財務状態を評価することが大切です。ここでは、主に「安全性」「収益性」「生産性」「成長性」の4つの観点に基づいて分析を進めます。それぞれの視点からどのような指標を用いるのか、そして何を読み取ることができるのかを詳しく解説します。

安全性分析

安全性分析は、企業の財務構造や資金繰りの健全性を評価するために行います。この分析の目的は、企業が債務の返済義務を果たす能力があるか、経営の安定性を維持できるかを確認することです。代表的な指標には、流動比率や当座比率、自己資本比率、固定比率、固定長期適合率などがあります。
たとえば、流動比率は流動資産を流動負債で割ることで計算されます。この比率が高いほど、短期的な負債に対する支払い能力が高いことを示します。また、自己資本比率は、企業の財政基盤の強さを評価するために大切な指標であり、これが高い場合、企業が借入金に過度に依存していないことを意味します。
安全性分析を行うことで、経営危機を未然に防ぎ、健全な財務運営を実現するための施策を実行することができます。

収益性分析

収益性分析は、企業が資本や資源をどの程度効率的に利益に変換しているかを評価する手法です。代表的な指標には、総資本経常利益率（ROA）、自己資本経常利益率（ROE）、売上高経常利益率などがあります。
ROAは、企業が持つ全体の資本を使ってどの程度の利益を生み出しているかを示す指標であり、経営の効率性を測る大切な数値です。一方、ROEは株主が出資した資本に対してどの程度の利益を生み出したかを示し、投資家にとって特に大切な指標となります。
売上高経常利益率は、売上高のうちどの程度が利益として確保されているかを示し、企業の収益性を直感的に理解するのに役立ちます。
収益性分析を通じて、企業の収益力や事業の効率性を見極め、利益率を向上させるための具体的な改善策を考えることができます。

生産性分析

生産性分析は、企業が保有する資源や人材をどれだけ効率よく活用しているかを評価する手法です。この分析では、主に労働生産性や資本生産性などの指標が用いられます。
労働生産性は、従業員一人あたりがどの程度の付加価値を生み出しているかを示します。一方、資本生産性は、投入した資本がどれだけの利益を生み出しているかを測定します。これらの指標を活用することで、企業の生産効率や経営資源の効果的な活用状況を具体的に評価できます。
生産性分析の結果は、人材や設備の配置を最適化し、経営効率を向上させるための基礎データとして活用されます。

成長性分析

成長性分析は、企業が将来的にどの程度成長を遂げる可能性があるかを評価する手法です。この分析では、売上高成長率や売上高研究開発費率などの指標を使用します。
売上高成長率は、一定期間の売上高の増加率を示し、企業の市場シェア拡大や事業拡大のペースを把握するのに役立ちます。さらに、売上高研究開発費率は、売上高に対してどれだけの資源を新規開発や革新に投じているかを測定します。この数値が高い場合、将来の成長に向けた積極的な投資を行っていると評価できます。
成長性分析を通じて、企業が持続的に成長するためのポテンシャルや競争力を客観的に判断できます。

財務分析の正しいやり方のポイント

財務分析を効果的に行うためには、正確なデータと適切な手法を用いることが欠かせません。分析結果が経営判断に直結する以上、正しいアプローチを取ることは避けて通れません。以下では、財務分析を成功させるためのポイントを3つに分けて解説します。

正しい財務諸表を作成する

財務分析の出発点は、正確で信頼性のある財務諸表の作成です。財務諸表に誤りがあれば、分析結果にも影響を与え、誤った意思決定を招くリスクがあります。そのため、会計処理の厳格なルールを守り、適切に記帳されたデータをもとに分析を行う必要があります。
特に中小企業では、内部管理体制の整備が不十分な場合が多いため、外部の専門家や会計士の協力を得ることが推奨されます。
また、国際会計基準（IFRS）や日本の会計基準に準拠した形で財務諸表を作成することも、外部の投資家や取引先からの信頼を得るために大切です。正しい基準で作成された財務諸表は、財務分析の土台として確実性を高めます。

長期間にわたって分析をする

財務分析は、短期間のデータに頼るだけでは十分な成果を得られないことがあります。一時的な要因や季節的な変動を考慮するためにも、数年間の財務データを比較することが必要です。このように長期的な視点でデータを分析することで、企業の成長トレンドや潜在的なリスクを把握することができます。
例えば、売上高や利益率の推移を過去5〜10年間で比較することで、企業がどのような外部環境の変化に適応してきたかを評価できます。また、長期間の分析は、経営改善策を実行する際の根拠でも大切です。過去のデータと比較することで、施策の効果を具体的に測定することができます。

専門家のアドバイスを受ける

財務分析は高度な知識や経験を必要とする分野であり、すべてを内部で賄うのは難しい場合もあります。特に中小企業や財務管理に精通していない企業では、専門家のアドバイスを受けることで、分析の精度を向上させることができます。
たとえば、外部の財務コンサルタントや公認会計士に依頼することで、より客観的で正確な分析結果を得ることが可能です。また、専門家の助言を受けることで、自社に適した財務指標や分析手法を選定することができ、効率的に問題解決を進めることができます。
さらに、専門家の知識を活用することで、最新の財務管理ツールや分析手法を取り入れることも可能です。

生成AIを使った財務分析のやり方

生成AIを活用することで、財務分析はより効率的かつ高度なものになります。生成AIは、大量の財務データを迅速に処理し、パターンを見出す能力に優れているため、従来の手法では見落とされがちなトレンドや異常を検出できます。
まず、正確な財務諸表や過去数年分のデータを用意し、AIが分析可能な形式に整えることが欠かせません。データの正確性が分析結果の信頼性を左右するため、事前の整備は慎重に行う必要があります。
次に、生成AIを用いてデータを分析することで、将来の売上予測や収益率の見通しを具体的に把握できます。これにより、企業の収益性や財務安定性を効果的に評価することが可能です。
さらに、生成AIは異常検知やリスク評価にも役立ちます。AIの高度なパターン認識能力を活用することで、予期せぬ支出の増加や収益性の急激な変動を早期に察知できるため、経営リスクを未然に防ぐ対応が可能となります。また、生成AIによるシミュレーションを活用すれば、経済変動や市場の変化が財務に与える影響を多角的に分析することができます。
ただし、生成AIの活用には注意も必要です。AIの分析結果は意思決定を補助するツールに過ぎず、最終的な判断は人間が行うべきです。また、AIが正確な結果を導き出すためには、十分なデータ量と高品質な入力データが必要です。
そのため、データ整備に時間をかけ、信頼性の高い情報を基に運用することが大切です。生成AIの適切な活用により、財務分析はより精緻化され、迅速な意思決定を支援する強力なツールとなります。

まとめ

財務分析は、企業の現状を把握し、課題を特定して、将来の成長戦略を立てる上で欠かせないプロセスです。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つの財務諸表を基に、安全性、収益性、生産性、成長性の4つの観点から多角的に評価することが求められます。
さらに、正確な財務諸表の作成や長期間のデータ分析、専門家のアドバイスを取り入れることで、より精度の高い結果を得られます。近年では生成AIを活用し、迅速かつ高度な分析が可能となり、リスク管理や意思決定をサポートする新たな手法として注目されています。これらを適切に活用することで、企業の持続的成長を実現できます。

早坂遊羽

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株式会社koujitsu 取締役 COO

京都大学卒業後、大手SIerにてITコンサルタントとして従事。官公庁や大手民間企業のプロジェクトにおいてメンバーとして関わる中で、よりハンズオンの支援に携わりたいと考えるようになる。その後PRコンサルタント、事業会社広報、人材事業立ち上げを経てkoujitsuへ参画。現職ではマーケティング事業部を統括しながら、プレイヤーとしてクライアントのマーケティング戦略企画・実務運用にも携わっている。