
新規事業の立ち上げを任されると、期待と同時に強いプレッシャーを感じるものです。既存の仕事で成果を出してきた人であっても、新しい事業では正解が見えにくく、迷いや不安を抱える場面が多くなります。特に、どのフェーズでも「きつい […]
新規事業の立ち上げを任されると、期待と同時に強いプレッシャーを感じるものです。既存の仕事で成果を出してきた人であっても、新しい事業では正解が見えにくく、迷いや不安を抱える場面が多くなります。特に、どのフェーズでも「きつい」と感じる瞬間があります。
しかし、新規事業に負担を感じる原因をあらかじめ理解しておけば、早めの対策が可能です。本記事では、新規事業がきついと感じる背景や、組織によくある課題、フェーズごとの壁とその乗り越え方を紹介します。さらに、社外の力を借りて負担を減らす方法もあわせて解説するので、新規事業をきついと感じた際の参考にしてください。
新規事業立ち上げが「きつい」と感じる4つの背景
新規事業は、既存事業の経験や知識を活かせない場面が多く、経験豊富な人でも困難を感じやすい領域です。ここでは、なぜ新規事業の立ち上げが「きつい」と感じやすいのか、その背景を4つの視点から整理します。
1.経営層と現場の認識や姿勢が一致していない
経営層は「将来の柱となる事業を育てたい」という長期的な視点を持っています。一方で、現場は「早く成果を出さなければいけない」という短期的なプレッシャーを受けやすいです。このように、目指すゴールや評価の基準が一致していないと、現場では毎回方針を変更せざるを得ず、負担を感じることが多々あります。
さらに、「このプロジェクトに意味はあるのか」と自問する時間が増え、モチベーションも下がってしまいます。このギャップを解消するためには、定期的な対話の場を設けて、目指す方向や進め方を共有することが重要です。
2.不確実性が高く評価の方法や基準が定まっていない
新規事業では、市場の大きさや顧客のニーズが不確定で、数値目標を設定しにくいという難しさがあります。もし評価の軸が明確でなければ、関係者の間でも成果の認識がバラバラになり、意思決定が進まなくなります。
また、売上などの短期的な数値だけを重視してしまうと、実験から得た学びが軽視されてしまう可能性もあります。こうした状況を改善するには、「どれだけ仮説を試して学べたか」など、学習の量も評価対象に含めることが効果的です。
明確な共有指標があれば、会議が議論の場ではなく合意形成の場となり、精神的な負担も軽くなります。
3.リソースの不足による現場の負担が増加する
多くの企業では、新規事業担当を他の業務と兼任させているケースが一般的です。そのため、必要なスキルや人材、予算がそろわず、担当者がいくつもの役割を抱え込むことになります。
結果的に既存の業務と新規事業のあいだで板挟みとなり、長時間労働や過重なストレスにつながります。現場の負担が増加すると疲労や精神的なストレスにより、仮説検証の質が下がるリスクも高まるでしょう。リソース不足を解消するためには、経営層がリソース不足の影響を正しく理解し、計画段階で必要な人手とスキルを明確にしておくことが大切です。
4.新規事業の立ち上げに求められるスキルのレベルが高い
新規事業では、お客様の課題を探る力、商品を形にする開発スキル、販路を開拓するマーケティング、そしてお金を管理する力まで、幅広い知識が必要です。既存事業で培ったスキルだけでは対応が難しく、新たな領域のスキルを身につけることが求められます。
また、市場や顧客の動きが早いため、柔軟に対応できる力も必要です。特に経験の浅い担当者ほど、「自分で対応できるのだろうか」という不安を感じやすくなるでしょう。不安を軽減するためには、自己学習の時間をあらかじめ確保し、社内外に相談できる相手を作ることが効果的です。
また、タスクを整理して、他の人に任せられる業務を明確にすることも負担の軽減につながります。
新規事業の立ち上げで「きつい」と感じる組織の課題
新規事業のきつさは、個人の能力や経験だけではなく、組織全体の仕組みや体制によっても大きく左右されます。どれだけ担当者ががんばっていても、組織としてうまく機能していなければ、同じような壁に何度もぶつかってしまいます。ここでは、よく見られる4つの組織的な課題を取り上げ、その背景を整理します。
1.意思決定権限の散逸とスピード低下
新規事業はスピード感がとても大切です。しかし、社内のあちこちに意思決定権が分かれていると、話をまとめるのに時間がかかります。関係者が多いと、会議を重ねても結論が出ず、競合他社に先を越されてしまいかねません。
こうした状態を改善するには、「この範囲までは誰が決めるか」という権限をあらかじめ決めておきましょう。例えば、ある金額以下の投資であれば事業部長の判断で進められるといったようにルールを決めると、意思決定のスピードが上がります。
また、決裁のルールを明文化することで、現場の迷いやストレスの軽減が可能です。
2.予算管理とKPI設定のミスマッチ
新規事業は、まだ売上が出ていない段階から実験や調査が必要になります。しかし、既存事業と同じように売上だけで評価すると、必要な予算がつかず、動きにくくなってしまいます。例えば、仮説を検証するためのインタビューや試作品の制作にかかる費用が認められないと、検証自体ができなくなります。
このような事態を防ぐには、事業の段階に応じて評価基準を変えていく「ステップ方式」が有効です。初期段階では「顧客へのヒアリング数」などを目標にして、事業の基盤ができてから売上や利益の指標に切り替えていきます。段階ごとのKPIが明確になれば、経営層との会話も前向きになり、事業全体がスムーズに進みます。
3.他部署協力不足によるサイロ化
新規事業の成功には、他部署との協力が欠かせません。営業、開発、マーケティングなど、既存の組織の力を借りることで、スピードも精度も上げることができます。
しかし、各部署のKPIがばらばらだと、「協力しても自分の評価に関係がない」と考えられてしまい、サポートが得られにくくなります。この問題を防ぐには、定期的に全体のプロジェクト会議を開き、情報を共有する場をつくることが大切です。
また、協力してくれた部署にも成果の一部を還元する仕組みを設けることで、連携が自然と進むようになります。部門の壁をこえることで、全体の学習スピードが上がり、事業の成長も加速します。
4.プロジェクトマネジメント体制の不備
新規事業は、状況に応じて計画を変えることが当たり前です。そのため、タスクやリスクの管理がきちんと仕組み化されていないと、関係者への情報共有がうまくいかず、手戻りが増えてしまいます。
また、誰がどこまで把握しているのかが不明瞭だと、チームの連携もうまくいきません。このような問題を防ぐには、例えば「スクラム」や「OKR」のようなフレームワークを取り入れ、週ごとに目標と成果を確認する仕組みを作ることが有効です。
さらに、経営層と現場の距離を近づけておくことで、問題が起きたときの対応も早くなります。プロジェクトの全体像が見えるようにしておくと、担当者も安心して挑戦できるようになります。
新規事業の立ち上げ時のきつさを改善する4つの方法
新規事業の立ち上げで「きつい」と感じる原因が分かってきたら、次は具体的な対策を打つ段階に入ります。ここでは、現場の負担を少しでも軽くするために、実行しやすく効果も高い4つの方法を紹介します。
1.経営層との認識のすり合わせを行う
新規事業の進め方や評価ポイントが経営層とずれていると、現場の負担は大きくなります。そのため、週に1回や2週間に1回のペースで「ラーニングレビュー」といった定期的なミーティングを開くと効果的です。この場では、進捗よりも「何を試して、何を学んだか」に焦点を当てて報告します。
経営層が学びの過程を評価する姿勢を見せることで、現場は安心してチャレンジできるようになります。また、会議の前に議題と期待する内容を共有しておくと、短時間でも中身のあるやり取りが可能です。
共通の言葉が増えることで、方向性のズレが減り、意思決定のスピードも上がります。
2.既存事業部との評価基準や意思決定についてすり合わせを行う
既存の事業部と連携して進める場合、評価の指標が異なると協力が得られにくくなります。例えば営業部門にサポートを依頼する際は、「この新規事業がどのように顧客基盤を広げるのか」を数値で示すことが大切です。
例えば、獲得できそうな顧客数や将来的な売上への貢献を具体的に伝えると、相手もメリットを理解しやすくなります。また、意思決定に必要な資料やフォーマットを統一しておくことで、やりとりのストレスを減らすことができます。
事前に手順を整えておけば、判断にかかる時間も短縮され、全体の動きがスムーズになります。
3.過去に新規事業の立ち上げに参画したメンバーを迎え入れる
過去に新規事業を立ち上げた経験がある人を、アドバイザーやチームメンバーとして迎えると、多くの気づきが得られます。経験者は、自分が過去に失敗したパターンや乗り越えた工夫を共有してくれるため、無駄な遠回りを減らすことができます。
また、暗黙的なノウハウを言語化してドキュメントとして残すことで、チーム全体の学びとして蓄積されます。さらに、若手メンバーにとっては経験者の存在が心理的な支えとなり、不安を抱えずに挑戦できるようになります。
知識や知見が自然と共有される環境をつくることで、継続的に学び合えるチーム文化も育ちます。
4.社外の新規事業担当者と相談する
社内のメンバーだけで悩みを抱え込まず、他社の新規事業担当者や外部のコミュニティと交流を持つことも大切です。同じような立場の人と話すことで、今抱えている課題に対する新しい視点や具体的な解決策が見えてくることがあります。
業種が違っていても、他社の取り組みを知ることで自社では考えつかなかった発想が生まれることもあります。また、悩みを共有できる仲間がいるだけでも、気持ちが楽になり、前向きに行動できるようになります。
定期的に交流できるイベントやオンラインサロンを活用し、継続的に外部とのつながりを持つ仕組みを整えることが重要です。
事業フェーズ別に乗り越えるべき壁と対策
新規事業の立ち上げでは、時間の経過とともに直面する課題が変わっていきます。それぞれの段階に応じた対策をあらかじめ考えておくことで、実行のスピードを落とさずに前進することができます。
ここでは、半年間を目安としたフェーズごとに、よくある壁とその乗り越え方を紹介します。
0か月目:アイデア創出で顧客課題を深掘りする
事業アイデアは、思いつきではなく顧客の悩みや不満をもとに考える必要があります。まずはインタビューなどを通じて、相手がなぜその行動を取るのかという背景や理由を丁寧に聞き取ります。表面的なニーズではなく、根本にある課題をつかむことが重要です。
例えば、「手間がかかるから困っている」という声があれば、どのくらいの時間が無駄になっているのかを具体的に測ってみます。このように課題を定量化し、価値のある改善策を導くことがアイデアの質を高めるポイントになります。
チーム全体で同じ認識を持つために、共感マップやジョブ理論などのフレームワークも活用すると効果的です。
1〜2か月目:仮説検証を行い意思決定を迅速化する
初期のアイデアがまとまったら、それに基づく仮説をリストアップします。そのうえで、「どの仮説が最もリスクが高いか」を見極め、優先順位をつけて検証を進めます。
検証の方法は、簡単なプロトタイプやペーパーモックなど、できるだけ早くお客様の反応が見えるものが適しています。検証の結果は「何が分かったか」「どんな気づきがあったか」「次に何をするか」という形で整理し、記録に残していきます。この記録は、後から振り返るときやチームで共有するときに役立ちます。
また、週ごとに経営層へ進捗を報告し、その場で判断を仰ぐことで、無駄な投資や方向性のブレを防ぐことができます。スピーディーな意思決定が、現場のストレスを減らすうえでも有効です。
3〜4か月目:MVP開発で学習サイクルを短縮する
主要な仮説の検証が進んだら、最小限の機能を持つ製品(MVP)をつくって、実際に動かしてみます。この段階では、開発チームとの連携が重要です。小さな単位で仮説を形にし、すぐに試して改善するという流れを繰り返します。
できあがったMVPは実際に使ってもらい、どのように使われているかをデータで追いかけます。ユーザーの行動から課題を見つけ、すばやく修正していくことで、無駄な開発を避けることができます。進行状況はボードなどで見える化しておくと、チームの連携もスムーズになり、全体の士気も高まります。
5〜6か月目:オペレーション整備で再現性を確立する
MVPで顧客の課題を解決できることが分かったら、次は運用の体制を整えていきます。この段階では、誰が担当しても同じように成果が出せるように、手順やマニュアルを整備していきます。例えば、サービスの流れやお客様への対応方法を文書化し、引き継ぎがスムーズにできるようにします。
また、顧客満足度(CS)を測る指標を設けて、定期的に振り返ることも大切です。運用が安定してくると、担当者は次の施策に集中できるようになり、負担も軽くなります。仕組み化によって、リソースの使い方にもゆとりが生まれます。
6か月以降:指標設計で事業の成長を促す
成長フェーズに入ったら、「この事業はどれくらいの価値があるのか」「どこまで伸ばせるのか」を数字で示すことが求められます。例えば、顧客1人あたりの利益(LTV)や、1人獲得するのにかかるコスト(CAC)を算出し、投資判断の材料とします。
ダッシュボードを整備し、関係者がリアルタイムで情報を確認できるようにすることも重要です。さらに、提携や海外展開といった拡大戦略を検討し、事業の上限を押し上げる取り組みも進めていきます。
数字での管理がしっかりしてくると、判断に迷うことが少なくなり、担当者の精神的な負担も軽減されます。
社外のリソースを活用してきつさを軽減する方法
新規事業の立ち上げでは、多くのスキルや人手が求められます。すべてを社内だけでまかなうのは難しく、時間もコストもかかってしまいます。だからこそ、社外の力をうまく借りることが、負担を減らすための大きなポイントになります。ここでは、社外リソースを効果的に使う2つの方法を紹介します。
外部パートナーを活用して業務負担を軽減する
開発やデザイン、リサーチなど、専門的な作業は外部のパートナーに委託することで、社内の負担を減らすことができます。例えば、契約形態を「準委任契約」にしておけば、状況の変化にあわせて柔軟に仕様を変更することができます。
また、成果に応じて報酬が決まる「KPIベースの契約」にすれば、社外のパートナーと目指す方向をそろえることも可能です。社内メンバーは、顧客への対応や仮説検証といったコア業務に集中できるようになり、精神的な余裕も生まれます。外部パートナーの進捗状況は、週に1回の定例会などで確認し、品質やスピードを保つことが大切です。
専門コンサルの活用で専門的なノウハウを取り入れる
新規事業に特化したコンサルタントは、たくさんの成功事例と失敗事例をもとに、効率の良い進め方を提案してくれます。社内だけでは気づきにくい視点や、経験に基づく判断軸を取り入れることで、仮説検証や市場分析の精度も高まります。
さらに、社内の力関係や利害に縛られず、経営層に対して第三者の立場から意見を述べられる点も大きなメリットです。コンサルタントとは「伴走型」で契約するのがおすすめです。
KPIの設計から検証、改善までを一緒に進めていくことで、チームに知見が定着しやすくなります。また、ワークショップや研修を組み合わせることで、メンバー全体のスキルアップにもつながります。
まとめ
新規事業の立ち上げが「きつい」と感じる主な理由は、不確実性の高さとリソースの制約にあります。社内でできることには限界があるため、必要に応じて外部の力を借りることは、決して後ろ向きな手段ではありません。
むしろ、社外の専門知識や人的ネットワークを取り入れることで、学びのスピードが速くなり、実行の精度も高まります。さらに、経営層との対話もスムーズになり、組織全体で新規事業に向き合う土台が整います。新規事業は常に挑戦の連続ですが、適切な支援を受けながら進めていけば、必ず乗り越えることができます。
本記事で紹介した「きつさの背景整理」「組織の課題」「フェーズごとの対策」「社外リソースの活用法」を参考にしながら、自分たちに合った方法で少しずつ改善を進めてください。早い段階で負担を軽減できれば、その分だけ事業の成長スピードも上がっていきます。

koujitsu編集部
マーケティングを通して、わたしたちと関わったすべての方たちに「今日も好い日だった」と言われることを目指し日々仕事に取り組んでいます。