「この事業を続けるべきか、それとも方向転換すべきか」 「社員の雇用を守りながら、新たな収益源を見つける方法が知りたい」 事業の停滞や市場変化に直面する中小企業経営者の多くが、このような悩みを抱えています。事業のピボットは、新たな成長を切り開く有力な戦略です。本記事では、ピボットの基本から成功事例までを分かりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

事業におけるピボットの意味

事業のピボットとは、企業が現在のビジネスモデルや戦略で成果を上げられなくなった際に、新たな方向性を見出すための柔軟な転換を指します。これは、既存の事業資産を活かしながら、成長可能性のある新しい市場やサービスにシフトすることを意味します。
具体的には、販売している製品やサービスの対象を変えたり、提供方法を大幅に見直したりすることが挙げられます。ピボットは単なる回復ではなく、市場環境や顧客ニーズの変化を先取りし、企業が将来に向けて戦略的に進化するための手段です。
例えば、ある飲食店が新型コロナウイルスの影響で店内営業が厳しくなった際に、テイクアウトやデリバリーを始めたケースがあります。このように、新しい方向へ舵を切ることで新たな顧客層を掴み、売上の維持や向上を実現することができます。

ピボットのメリット

ピボットの最大のメリットは、企業が停滞を打破し、成長軌道に乗せるための新たな道を切り開けることです。例えば、既存の顧客ニーズに対応しきれなくなった製品やサービスを持つ企業が、ピボットによって新たな顧客層をターゲットできることも少なくありません。
これは、リソースの再配置や技術の応用を通じて実現されることが多いです。こうした柔軟な対応により、企業は市場競争の中で有利な立場を保つことが可能になります。
また、ピボットは収益機会の多様化にもつながります。一例として、伝統的な製造業が消費者向けの直販モデルにシフトし、大幅な収益改善を果たしたケースがあります。こうした変化は、新しい顧客ニーズに対応するための製品やサービスを開発する過程で得られる知見によります。
さらに、ピボットを通じて得られるもう一つの大きな効果は、社員のモチベーション向上です。新しい方向性に挑戦する中で、組織全体が変化を恐れない文化を築くことができます。これにより、従業員は自身のスキルを活かし、新たな環境で活躍できる喜びを得ることができます。

ピボットのデメリット

一方で、ピボットにはリスクも伴います。最も注意すべき点は、計画の不備が事業全体を揺るがす可能性があります。まず、新たな市場や事業モデルに取り組む際には、多くの場合で初期投資が必要になります。
例えば、飲食業がテイクアウトを開始する場合、パッケージ資材の調達やオンライン注文システムの導入など、新たな資金が必要です。このような費用負担は、特に資金繰りに課題を抱える企業にとって大きな負担となる可能性があります。
また、既存の顧客層を失うリスクも存在します。ピボットによる事業内容の変化が、既存顧客の期待や信頼を裏切る結果にならないよう、慎重なコミュニケーションが必要です。たとえば、従来から支持されていた製品ラインを縮小することで、一部の顧客からの不満が生じることも考えられます。
さらに、組織内での混乱や負担増加も課題となり得ます。新しい事業に必要なスキルを持つ社員の採用や育成、既存社員への教育には時間と労力がかかります。こうした準備が不十分な場合、社員の士気が下がり、最悪の場合離職率の上昇を招くこともあります。

ピボットピラミッドからわかるピボットすべき内容

ピボットピラミッドは、事業のさまざまな側面を分析し、改善すべき部分を明らかにするためのフレームワークです。このピラミッドでは、顧客、課題、ソリューション、テクノロジー、成長戦略などの要素を整理して、それぞれの現状と改善可能性を確認します。
これにより、どの部分を優先的に変えるべきかを具体的に把握できます。例えば、中小企業の経営者が市場変化に対応するために顧客層や提供価値を見直す際、このピラミッドを活用することで、事業全体の構造を整理しやすくなります。それでは、各要素を順に解説していきます。

顧客

新たな顧客層を発見し、ターゲットを再定義することがピボットです。市場の変化により、従来の顧客が離れたり、新しい顧客層が出現したりすることがあります。そのため、顧客のニーズを改めて把握し、どの層にアプローチするかを見直すことが必要です。
例えば、ゲーム実況配信プラットフォームのTwitchは、もともとは日常生活を配信するサービスとしてスタートしましたが、後にゲーマーたちの熱量が高いことに気づき、専用プラットフォームとして方向転換して、成功を収めました。

課題

顧客の真の課題を正確に把握することで、提供価値を高められます。表面的なニーズではなく、顧客が何に困っているのかを深く理解することが大切です。特に、現在のサービスが十分に解決できていない場合は、課題を再評価する必要があります。
例えば、スマートフォン向けOSのAndroidは、当初はカメラ端末向けOSとして開発されましたが、市場性がないことから、汎用の携帯電話OSに方向転換しました。これにより、Androidは世界のスマートフォンOS市場で大きなシェアを獲得しました。

ソリューション

提供する商品やサービスを見直し、より効果的な解決策を提案することが求められます。既存のソリューションが顧客の課題に十分応えられていない場合、新たなアイデアを取り入れる必要があります。このとき、競合他社との差別化も意識しなければなりません。
例えば、写真共有アプリのInstagramは、当初はロケーション系サービス「Burbn」としてスタートしましたが、ユーザー数が伸び悩んだため、写真の加工・共有に特化したシンプルなアプリに方向転換しました。これにより、ユーザー数が急増し、成功を収めました。

テクノロジー

最新の技術を取り入れることで、競争力を高めることが可能です。技術は、顧客体験の向上や業務効率化を実現する大切な手段です。現在使用している技術が時代遅れになっていないかを定期的に見直す必要があります。
例えば、Twitterはユーザー数の急増に対応するため、バックエンドの開発言語をRubyからScalaに変更しました。これにより、サービスの安定性と拡張性を向上させました。

グロース

長期的な成長を見据えた戦略を構築することが成功への道です。ピボットを検討する際には、事業の拡大可能性や持続性も考慮しなければなりません。新たな市場への進出やサービスの多角化がその一例です。

事業のピボットのタイミング

事業のピボットを検討する際には、適切なタイミングを見極めることが大切です。適切な判断ができれば、停滞していた成長を再び軌道に乗せることが可能です。しかし、焦りや誤った判断に基づくピボットは、さらなる負担や失敗のリスクを高める可能性があります。
たとえば、競争が激化し市場でのシェアが縮小している場合や、従来のビジネスモデルが安定した収益をもたらさなくなっている場合が考えられます。また、新たな市場の需要が明確になったり、トレンドが急速に変化している時期も、ピボットを検討すべきタイミングの一つです。
ただし、これらのサインだけで即断するのではなく、自社のリソースや市場環境を徹底的に分析することが欠かせません。焦らず準備を整えた上でピボットを実施することが成功の道となります。

事業のピボットの注意点

ピボットには必ずリスクが伴います。そのため、慎重な準備と計画が不可欠です。失敗を回避するためには、単なる方向転換ではなく、戦略的な選択肢として実行する必要があります。焦りや無計画な判断は、事業をさらに悪化させる恐れがあります。

安易にピボットしない

ピボットは、短期的な問題を解決するための簡単な手段ではありません。問題の本質を見極め、現状の課題が一時的なものなのか、構造的な欠陥によるものなのかを分析することが大切です。
たとえば、市場環境が一時的に悪化している場合、既存のビジネスモデルを見直し改善する方が合理的な場合も少なくありません。「今すぐ結果を出したい」という焦りは、かえって事業の持続可能性を損ねるリスクがあります。冷静な判断と長期的な視点が求められます。

タイミングを慎重に見極める

ピボットが成功するかどうかはタイミングに大きく依存します。リソースが不足している状態や、市場の変化が不確実な段階で決断すると、事業がさらに不安定になる恐れがあります。
たとえば、十分な資金や人的リソースが確保できていない状態でピボットを行えば、新しい事業展開が中途半端に終わる可能性もあるでしょう。また、市場トレンドを正確に把握せず動くことも、リスクを高める要因となります。自社の内部準備と市場の状況を十分に検討した上で判断を下すべきです。

企業理念から逸脱しない

ピボットを実行する際には、企業の理念や価値観を損なわないことが大切です。方向転換が短期的な利益を追求するあまり、企業の本質的な存在意義を失うことがないよう注意する必要があります。
たとえば、環境保護を掲げる企業が、利益優先で環境負荷の高い事業に転換した場合、顧客や社員からの信頼を失い、ブランドイメージも大きく損なわれるでしょう。ピボットは、短期的な成功を目指すのではなく、長期的な視点で信頼と価値を築く手段であるべきです。

事業のピボットの成功事例

事業のピボットには成功例が多く存在します。それらは企業の強みを生かし、新たな価値を提供することで実現しています。ここからは、いくつかの実例を挙げながら、それぞれの成功要因を考察します。

任天堂株式会社

任天堂は、もともと花札メーカーとして創業しました。しかし、時代の変化とともに、家庭用ゲーム機の開発に転換しました。「楽しさを提供する」企業理念を軸に、新しい市場での成功を収めました。世界的な人気を誇る「スーパーマリオ」や「ゼルダの伝説」などの作品は、このピボットがもたらした成果の一例です。

slack Japan株式会社（Slack）

Slackのルーツはゲームソフト開発でした。開発過程で作られた社内向けのコミュニケーションツールが注目を集め、事業の主軸がツール開発へと転換しました。このピボットは、「使いやすさ」を重視した製品設計が大きな支持を集めた結果です。

株式会社MIXI（ミクシィ）

かつてはSNS市場の先駆けだったミクシィは、競争が激化する中でモバイルゲーム事業に移行しました。「モンスターストライク」の成功が、収益源の確保と新たな市場での地位確立に大きく貢献しました。SNSの経験を活用しながら、新たな価値を提供する姿勢が評価されています。

Meta Platforms, Inc.の『Instagram』

Meta（旧Facebook）がInstagramを買収した後、写真共有アプリとしての機能を進化させつつ広告収益モデルを確立しました。「ビジュアル中心のSNS」とコンセプトを深化させたことで、マーケティングプラットフォームとしての地位を築きました。

富士フイルム

写真フィルム需要が減少する中、富士フイルムは医療や化粧品事業に進出しました。「技術力を新たな分野に応用する」ことで、多様な市場での成功を収めています。長年培った技術を活用したこの戦略は、企業の持続可能な成長に繋がります。
これらの事例に共通するのは、時代の変化を敏感に察知し、自社の強みを最大限活用した点です。ピボットを検討する際には、これらのポイントを参考に、自社の可能性を模索してみてください。

まとめ

事業におけるピボットは、変化する市場や顧客のニーズに対応するための重要な戦略です。適切に実行することで新たな成長機会を掴むことができますが、タイミングや内容を慎重に見極めることが成功へのポイントとなります。本記事ではピボットのメリットや注意点、成功事例について解説しましたが、実践には専門的な支援が求められる場面も多いです。
koujitsuでは、事業戦略の策定から施策実行までを一貫してサポートし、企業がピボットを含めた柔軟な事業展開を実現できるよう支援します。ぜひお気軽にご相談ください。

早坂遊羽

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株式会社koujitsu 取締役 COO

京都大学卒業後、大手SIerにてITコンサルタントとして従事。官公庁や大手民間企業のプロジェクトにおいてメンバーとして関わる中で、よりハンズオンの支援に携わりたいと考えるようになる。その後PRコンサルタント、事業会社広報、人材事業立ち上げを経てkoujitsuへ参画。現職ではマーケティング事業部を統括しながら、プレイヤーとしてクライアントのマーケティング戦略企画・実務運用にも携わっている。